終わった日常 3
さて、外に出てみると、いい天気だった。
俺が普通に高校生として学校に通う時と変わらない天気だ。
違うこといえば……
「……まぁ、いるよな」
俺が外に出ると、その視線の先にはすでにゾンビがいた。
電柱に寄りかかってぼぉっと空を眺めている。
ゾンビには大体二種類のタイプがいる。
一つは、うろうろしているタイプ。これが大体のゾンビ。
コイツらはうろうろと徘徊し、人間と遭遇すると、襲いかかってくる。
もっとも、襲いかかってくると言っても、動きは緩慢なので余程のことがないと不味いことにならない。
気をつけるべきは、このうろうろタイプに囲まれてしまうことだ。
俺はゾンビ観察において、外に出た人間が、うろうろゾンビに囲まれてそいつ等のご飯になってしまっていたのを何度も見てきた。
犠牲になった方々のためにも、そこらへんは気をつけるべきである。
そしてもう一つは、今俺の前にいるぼぉっとタイプだ。
こいつらはゾンビの中でも少ないタイプ……だと思う。
ぼぉっと空を眺めていたり、ただ突っ立っているタイプである。
こいつ等に襲われている人間は見たことがないが、用心することにこしたことはないだろう。
俺はバットを握りしめて一歩ずつ歩き出した。
スリッパの効果で、確かに足音はしない。
そして、そのまま電柱近くのぼぉっとゾンビの近くを通り過ぎる。俺はゆっくりとゾンビの方に顔を向けた。
ぼぉっとゾンビはただぼんやりと俺のことを見るままである。
俺はゴクリと音をたてないように唾を飲み込む。そして、そのまま歩き出す。
振り返らずにそのまま電柱から離れた。
ずいぶんと離れた当たりで、俺は振り返る。
ぼぉっとゾンビは、何事もなかったかのように電柱にもたれかかって空を見上げていた。
「……はぁ。呑気な奴だなぁ」
実際、ぼぉっとゾンビは何をしてくるかわからなかったので俺は不安だった。
もし、実はものすごく足が速いとか、いきなり走ってくるとかだと俺的にはかなり困るのだ。
しかし、どうにもぼぉっとタイプのゾンビは単純にぼぉっとしているだけでいてくれたのが俺にとって好都合だった。
もっとも、今なお電柱に寄りかかったままでぼぉっとしているこのゾンビだけがそういうタイプであって、もしかすると、他のぼぉっとタイプは違う特性を持っているのかもしれない。
なんせ、ゾンビなんてのは元は人間だ。人間ってのは個性も様々。
そうなると、ゾンビだってそうであってもおかしくはない。
「なんにせよ、最初の難関を通り過ぎることができたのはよかったな」
俺はそう思ってふと家の方を見る。
ちょっと前までは俺と母さんと父さん、そして、俺の三人で過ごしていた家。
しかし、今は俺しかいない。
父さんは三週間前、隣のじいさんがゾンビ病を発症したその日、仕事に行ったきり帰ってこなかった。
母さんは、その三日後、帰ってこない父さんが心配だから迎えに行くと言って家を出たきり行方知れず。
最初は悲しくて仕方なかったが……泣きぬれた期間は既に二週間ほど前に過ぎ去っている。
「……よし。行くか」
俺は気を取り直してコンビニに向かって歩き始めた。