ゾンビ・ライフ 7
自然と涙がこぼれていた。
怖かった。
ここで帰ってしまったら、今度こそ、俺はこの世界で一人になってしまうのではないかと思えて。
「あかい、くん……」
小室さんが目を丸くして俺を見ている。
「小室さん……そんなこと言わないでよ! 小室さんは、一人で平気なの?」
「へいき。わたし、ぞんび」
「だから! 言っているじゃないか! 小室さんはゾンビじゃないんだよ! いいの? 絶対寂しくなるよ? 一人は寂しいんだよ?」
まるで駄々をこねるような子供だってことは、自分でも理解していた。
でも、小室さんは俺に対して呆れたような視線を向けることはなかった。
ただ、珍しい動物を見るかのようにして、俺を見ていた。
「じゃあ、わたし、どうすれば、いい?」
「どうすればいいって……俺と一緒に帰ってよ!」
「でも、あそこは、あかいくんのいえ。わたしのいえ、じゃない」
「それでも! せめて、ワクチンが配布されるまでは……俺の家を小室さんの家と思っていいから……」
俺はそのままうつむいてしまった。
考えてみれば、俺は結構参ってしまっていたようである。
女の子の前で涙ながらに自分と一緒に家に帰ってくれなんて、かなり恥ずかしい。
それでも俺はどうしても、小室さんに一緒に帰ってほしかった。
また、何もしゃべらなくてもいいから、俺の家のソファに座っていてほしかったのだ。
「……あかいくん、ふしぎ」
「……え?」
俺はふいに小室さんが口にした言葉に顔を上げる。
「さっきまで、あんなにげんき。でも、いまはないてる」
「あ……う、うん。恥ずかしいけどね」
「ちがう。はずかしいこと、ない。むしろ、うらやましい」
「え?」
小室さんは無表情のままで俺を見ていた。
だけど、その目の端にはうっすらと光るものがあった。
「ぞんび、なってから、ひょうじょう、うごかせない。わたし、なく、ぐらいしか、できない」
「あ……小室さん」
そういって小室さんはゆっくりと俺の近くに戻ってきてくれた。
「おとうさん、おかあさん、いなくて、すごくふあん。だけど、いえにいないと、おとうさん、おかあさん、むかえられない」
「あ……そ、そうだよね……ごめん」
俺が謝ると、小室さんはなぜか俺に向かって手を伸ばしてきた。
そして、ポンと頭の上にそれを置く。
「でも、かえる」
「……え?」
俺は驚いた。
小室さんは俺の頭をぎこちなくではあるが、優しく撫でてくれていたからだ。




