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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター4
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ゾンビ・ライフ 7

 自然と涙がこぼれていた。


 怖かった。


 ここで帰ってしまったら、今度こそ、俺はこの世界で一人になってしまうのではないかと思えて。


「あかい、くん……」


 小室さんが目を丸くして俺を見ている。


「小室さん……そんなこと言わないでよ! 小室さんは、一人で平気なの?」


「へいき。わたし、ぞんび」


「だから! 言っているじゃないか! 小室さんはゾンビじゃないんだよ! いいの? 絶対寂しくなるよ? 一人は寂しいんだよ?」


 まるで駄々をこねるような子供だってことは、自分でも理解していた。


 でも、小室さんは俺に対して呆れたような視線を向けることはなかった。


 ただ、珍しい動物を見るかのようにして、俺を見ていた。


「じゃあ、わたし、どうすれば、いい?」


「どうすればいいって……俺と一緒に帰ってよ!」


「でも、あそこは、あかいくんのいえ。わたしのいえ、じゃない」


「それでも! せめて、ワクチンが配布されるまでは……俺の家を小室さんの家と思っていいから……」


 俺はそのままうつむいてしまった。


 考えてみれば、俺は結構参ってしまっていたようである。


 女の子の前で涙ながらに自分と一緒に家に帰ってくれなんて、かなり恥ずかしい。


 それでも俺はどうしても、小室さんに一緒に帰ってほしかった。


 また、何もしゃべらなくてもいいから、俺の家のソファに座っていてほしかったのだ。


「……あかいくん、ふしぎ」


「……え?」


 俺はふいに小室さんが口にした言葉に顔を上げる。


「さっきまで、あんなにげんき。でも、いまはないてる」


「あ……う、うん。恥ずかしいけどね」


「ちがう。はずかしいこと、ない。むしろ、うらやましい」


「え?」


 小室さんは無表情のままで俺を見ていた。


 だけど、その目の端にはうっすらと光るものがあった。


「ぞんび、なってから、ひょうじょう、うごかせない。わたし、なく、ぐらいしか、できない」


「あ……小室さん」


 そういって小室さんはゆっくりと俺の近くに戻ってきてくれた。


「おとうさん、おかあさん、いなくて、すごくふあん。だけど、いえにいないと、おとうさん、おかあさん、むかえられない」


「あ……そ、そうだよね……ごめん」


 俺が謝ると、小室さんはなぜか俺に向かって手を伸ばしてきた。


 そして、ポンと頭の上にそれを置く。


「でも、かえる」


「……え?」


 俺は驚いた。


 小室さんは俺の頭をぎこちなくではあるが、優しく撫でてくれていたからだ。

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