ゾンビ・ライフ 6
「あー……いないみたいだね」
俺は曖昧に微笑みながら小室さんにそう言った。
「おとうさん、おかあさん、いない?」
「うん。少なくとも、この家にはいない」
「ほんと? にかいも、みた?」
小室さんは確認するように聞いてきた。俺は戸惑ったが、ありのままを答えることにした。
「いや、見てないよ。でも、リビングを見てきた。見た感じだと、大分この家には帰ってないみたいだよ」
俺がそういうと、小室さんはゾンビなりにどういう表情をしたらいいかわからないようだった。
「……とにかく、家に帰ろう」
「……いや」
「え?」
俺がそういうと小室さんは明確にそう返事してきた。
ゾンビとは思えないほど、はっきりとした口調だった。
「……わたしのいえ、ここ。どこにも、いかない」
「え……小室さん。何言っているの。この家には誰もいないんだよ? 一人でずっとここにいるっていうの?」
「そう。わたし、ぞんび。べつに、もんだいない」
言われて俺は気づいた。
そうだ。別に何の問題もないのだ。
小室さんは自分の家に帰りたかったのだ。
だから、俺にこうしてここまで連れてこさせた。当り前のことだ。
「そ、そうか……」
「うん。じゃあね。あかいくん」
そういって小室さんはそのまま自分の家の方に向かっていく。
その瞬間、俺は感じたことのない恐怖を感じた。
別に、小室さんがいなくても家までは帰ることはできる。
ゾンビ共は自転車のスピードには追い付いてこられないんだから。
だが、その後、家に帰ったら、また俺は独りだ。小室さんはいない。
ソファに座っているだけで、ろくに話もしてくれないけれど、俺は小室さんがいるだけで安心できた。
この世界に、まだ俺と会話をしてくれる存在がいるんだと、そう思うことができた。
でも、それがもうできない。
「……いやだ」
俺は思わずつぶやいていた。
「え?」
俺のつぶやきに、小室さんも振り返った。
俺は小室さんを見る。
「……嫌だよ……もう、一人で家に帰りたくない……!」
俺は心の底から絞り出すようにそう叫んだ。




