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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター4
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ゾンビ・ライフ 5

「えっと……入る?」


 俺がためらいがちにそう尋ねると、小室さんはゆっくりとこちらに顔を向けた。


「……あかいくん。みてきて」


「え? 俺? 一人で?」


 小室さんは容赦なく迷いなく、コクリと頷いた。


「な、なんで? 一緒に行こうよ。ゾンビと遭遇しても小室さんがいた方が――」


「おとうさん、おかあさん。いまのわたし、みたら、おどろく」


「え……あ……」


 確かに今の小室さんは残念ながら見た目には完全にゾンビだ。


 青白い肌に、死んだ魚のような目……というか死人の目。


 ぱっと見ただけではゾンビとしか認識できないだろう。


 そんな我が娘を見たとき、父と母が恐怖しないとは言い切れない。


 もっとも、父と母が生きていれば、の話だが。


「あ……わかった。行ってくるよ」


「……ごめん」


「え? ああ。気にしないで。えっと……」


 俺は周囲を見渡し、小室さんの家の前の傘立てにあった一本の傘を手に取る。


「うーん、頼りないけど……仕方ない」


 無論、こんなものは使わない方がいい。


 だが、万が一家の中の小室さんのお父さんとお母さんが、俺のことを遅めのランチとしてしか認識出来ない状態になっている場合だって考えられる。


 俺は傘の柄を握りしめ、ドアに手をかけた。


「……あれ?」


 すると、ドアが開いた。てっきり玄関から入れないだろうと思っていたのだが。


「あー……小室さん。じゃあ、ちょっと家の中見てくるから」


 俺がそういうと小室さんはうなずいた。俺は扉の隙間から家の中を覗き込む。


 暗い家の中はシーンと静まり返っている。人の気配及びゾンビの気配は感じられない。


 だとすれば、とりあえず入ってみても大丈夫そうだ。


「お……おじゃまします」


 俺はゆっくりと扉を開き、中に入った。とりあえず靴を抜いて家の中に上がる。


 傘を持ったままで俺は十分に周囲を警戒する。


 そして、そのまま廊下を歩きだす。家の中には俺の足音しか聞こえない。廊下の先には扉がある。おそらくその先にあるのはリビングだろう。


 俺はそのままリビングの扉を少し開ける。リビングも真っ暗だった。


「……よし」


 ゴクリと生唾を飲み込み、俺はリビングの扉を少しずつ開けた。そして、中に入る。


「……はぁ。なんだ。誰もいないのか」


 俺は大きくため息をついた。リビングはシーンと静まり返っている。


 というか、ずいぶんとこの家に帰ってきていないのか。机の上にはうっすらと埃が溜まり始めている。


「うーん……シェルターに避難できているのか、それとも……」


 一応、公民館や市役所という名のシェルターが、市や街の緊急避難所となっている。


 しかし、止まらないゾンビ病患者のせいで、そんな避難所もゾンビに襲われたり、内部に紛れ込んだ患者によって地獄と化したりしたというニュースも幾つか聞いている。


 俺は暗い気持ちになったままで玄関へと戻ることにした。そして、扉を開ける。


 扉を開けた先では、小室さんがこちらをじっと見ていた。


 その顔は相変わらず無表情だったが、その死人の目には、どこか不安そうな色が宿っているのを見ることが出来た。

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