ゾンビ・ライフ 3
自転車で走っている最中には、もちろんゾンビ達の姿が見えた。
しかし、ゾンビ達は俺達に対して、まるで駅のホームにいる人が特急電車を眺めるように、呆然として見ているだけだった。
やはり、自転車のスピードはゾンビには追い付けるものではないらしい。
そうなると俄然気分が軽くなった。自分でも驚くほどに気分爽快になってきたのである。
ゾンビが追いついてこないならば食べられる心配もない。自然とペダルを漕ぐ足も軽くなる。
「あかい、くん」
「ん? 何? 小室さん」
なんとか聞こえてきた小室さんの声に俺は快活に返す。
「すぴーど、はや、い」
風の音で震える小室さんの声が、耳元に聞こえてきた。
「え? そうかな? いいじゃん。どうせだれも見てないさ」
俺は後ろを振り返らずに、自然と嬉しそうな声で返した。
「で、も……ふたりのり、ほんとは、だめ」
「え? あはは! 小室さん、真面目だなぁ。いいんだよ! どうせ、二人乗りを注意してくるゾンビなんていないんだからさ!」
俺はそう言いながらさらにスピードを速めた。
小室さんの腰にまわした手の力が強くなる。
考えてみれば、俺は今女の子と自転車の二人乗りをしているのだ。
まぁ、その女の子はゾンビだけど……でも、可愛いのだ。
これって、もしかすると……青春ってヤツじゃないだろうか。
いや、そもそも小室さんはゾンビであってゾンビではないのだ。
これはもう青春真っ盛りといっても過言ではない。
俺にとっては、ゾンビがいなかったこれまので日常ではまったく縁のなかった青春が、今まさに訪れているのである。
そう考えると俺のテンションの上昇は益々加速した。
「ふふっ……やっほー!」
俺のテンションは完全にマックスだった。
小室さんが俺の腰に回した手の力はさらに強くなる。
むしろそれが俺にとっては嬉しかった。
そのまま俺は、駅までの道を、ゾンビ共を尻目に自転車で、全力で駆け抜けたのだった。




