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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター3
22/204

ゾンビ・ライフ 1

 そんなこんなで俺とゾンビ少女である小室さんとの生活は、まずは一週間続いた。


 生活といっても朝起きて俺が飯を食う。小室さんは食べない。


 昼になって俺が飯を食べる。小室さんは相変わらずソファに座ってぼぉっとテレビを眺めている。


 さらに夜になって、小室さんがようやく立ち上がる。風呂に入るためだ。


 その後で俺は夕食を食べ、さらに、小室さんが風呂から出てきた後で小室さんの体を拭いて、俺も風呂に入る。


 二人の間には特に会話も少ないものだった。


 小室さんがゾンビだから流暢に話せないのもあるが、この状況下で誰かと何かについて話すにも、そもそも話題がなかったのである。


 しかし、今まで一人だった俺にとっては、家の中に自分以外の誰かがいる、ということは恥ずかしながら安心感だった。


 それがたとえゾンビ少女であっても、それは間違いなく安心という感情だった。


 そんな日々が続いた週の次の月曜日。


「いえに、かえりたい」


 小室さんが珍しく言葉を発したと思ったら、飛び出してきたのはそんな言葉だった。


「……え?」


 思わず俺は聞き返してしまった。


「かえり、たい」


 小室さんは今一度俺に向かって強い口調でそう言ってきた。


「あ……えっと、小室さん。その……家に帰りたいって?」


「かえる。わたしの、いえ」


「それって、小室さんの家、ってこと?」


 俺が訊ねると、小室さんは頷いた。


 俺は小室さんが自分の家……つまり、小室さんが住んでいる本当の家に帰りたいのだということをようやく理解した。


「あ……なるほどね。そっか……小室さんの家って、遠いの?」


「そんなに。がっこうの、ちかく」


「小室さんの学校って、どこ?」


「えきの、ちかく」


「駅か……コンビニよりは距離あるね」


 俺は思わず唸ってしまった。


 コンビニからこの家まで帰ってくるのだけでも、相当な時間がかかってしまった。


 それなのに、ゾンビである小室さんがそれ以上の距離を歩くとなると、ちょっと想像したくない。


 この家から駅までそれなりの距離がある。歩いて行くのはまず無理だ。


 そうなると他の移動手段を考えなければならない。


「……他の移動手段」


 思わずそう呟いてしまったが、他の移動手段って……なんだ?


 俺とゾンビである小室さんが、二人同時に同じスピードで動くことの出来る移動手段……そんな便利な乗り物があるわけ――


「あ」


 俺の口からそんな言葉が漏れた。


「どうした、の?」


「……あ、ああ。いやね……一応、駅まで行けないこともないかなぁ、って」


「ほん、と?」


「うん。ただ……」


「ただ、なに?」


「あー……えっと、小室さん、俺の腰にしっかり手をまわしておいてくれるかな?」


 小室さんはいまいち理解できていないようで、その青白い顔で小首を傾げていた。

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