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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター29
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学園からの脱出

「あ……赤井……」


 その声を聞いて、俺は振り返る。


「え……あ、ああ……紫藤さん……」


 紫藤さん、そして、隣には古谷さん……二人共少し引き気味だった。


 あ……そうか。今俺、血だらけなのか……そりゃあ、引くわな。


 そう思っていると……二人の背後から小室さんがやってくる。


「あかい……くん」


「小室さん……あはは、なんとか……なったよ」


 無理に笑顔でそう言ってみるが……正直、未だに川本さんの死体は直視できなかった。


 仕方なかったとは言え、俺はこんな残酷なことをしてしまった……そんな罪悪感が今更ながらにこみ上げてくる。


「さて……じゃあ、とりあえず……この学校を脱出して――」


 俺がそう言って立ち上がった矢先だった。小室さんは少し早足で俺の方にやってきたかと思うと、そのまま俺にゆっくりと抱きついた。


「え……小室さん?」


「……ありがと。ごめんね。あかいくんに……つらいことさせて」


 小室さんは淡々とした口調でそう言っているが……そう言ってもらえるだけでも、俺は安心できた。


「……ああ。ありがとう」


 俺がそう言うと、小室さんゆっくりと俺から離れた。そして、その死んだ魚のような目で優しく俺を見ていた。


「あー……お取り込み中悪いんですが……」


 と、古谷さんの不機嫌そうな声で俺は我に返る。


「え……あ、ああ。何?」


「……私達からも言わせて下さい。その……ありがとうございます。赤井君がいなかったら……ねぇ?」


 そう言って、紫藤さんのことを観る古谷さん。紫藤さんは少し恥ずかしそうにしながら小さく頷いた。


「まぁ……ジリ貧だったしなぁ。間に合ってくれてよかった……そういえば、あのクソ生徒会長様は?」


 紫藤さんにそう言われて、俺はチェーンソーが置いてあった教室の方を見る。


 未だに大量のゾンビの気配がある……見なくても、黒上さんの最期は理解できた。


「……黒上さんは……最期の最期で、生徒会長の責任を果たそうとした、って感じかな」


 俺がそう言うと三人はキョトンとした顔をする。


「へっ……何じゃそりゃ。大体アイツが自分で撒いた種じゃねぇか。まったく……」


 実際そうなのだが……どうにも俺には黒上さんが100%悪人には思えない。


 もっとも、悪いことをしてしまったことは間違いないのだが……


「あのひと、かなしいひとだった」


 と、呟くように小室さんがそう言う。悲しい人……それが一番黒上さんを表すのに適切な言葉なのかもしれない。


「……とにかく! 非常口はすぐそこです! 早く行きましょう!」


 古谷さんの言葉に俺たちは同意した。この学園から抜け出す……それが本来の目的なのだ。


 先に小室さん、古谷さん、紫藤さんの順で非常口を抜ける。そして、最後に俺。


 非常口を抜ける際、俺は振り返る。血と煙に塗れた廊下……やっぱり悲しい気分になった。


「赤井! 早く来い!」


 紫藤さんの声で俺はその光景を見るのをやめた。


 この学園の狂った環境……それこそが、今世界に起きている悲劇の縮図なんじゃないかと俺は勝手に考えながら、三人のもとに走った。

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