ゾンビ少女の憂鬱 6
そして、日が沈むまで俺はゾンビ観察をしていた。
相変わらず、家から駅、及び学校までは大体ゾンビだらけだ。
もっとも、家の前の電柱に寄りかかっていたゾンビがいなくなったので大分気分的には軽くなったのだけれど。
それにしても、気になるのは小室さんのことだった。
怒ってたよな……ゾンビだから表情からはあまり感情を読み取れなかったけれど、あれは確実に怒っていた。
「……なんで、怒ったのかな」
やっぱり俺には彼女がなぜ怒っているのか理解できなかった。
まだ、パジャマの前のボタンは開いたままなんだろうか……そう考えるとなんだか放っておけなくなってきた。
俺は双眼鏡を机の上において、一階へと降りて行った。
そして、リビングの中をゆっくりと覗き込む。
やはり、いまだにソファに座ったままだったし、パジャマのボタンは開きっぱなしで、その隙間から白い肌が見えていた。
「あ……小室さん?」
俺が呼びかけても、彼女は顔をこちらに向けようとしない。俺はそのまま近づいて行った。
「あ」
そして、思わず俺は声を出してしまった。
泣いていた。小室さんは、泣いていたのだ。目から涙を流している。
「ぞんび。なく。おかしい?」
ゆっくりと小室さんは俺にそう尋ねてきた。
「あ……い、いや、まぁ……」
「……わたし。ぞんび、きらい」
「……え?」
思わず俺が聞き返すと、小室さんは俺から視線をそらした。
「にんげんのとき、できたこと。できない……つらい」
その言葉で、俺はようやく彼女が怒っていた理由が理解できた。
小室さんは、悔しかったのだ。自分がゾンビになってしまったことが。
それなのに、俺はなんと彼女に無神経な対応をしてしまっていたのだろうか……
「あ……な、何言っているんだ。小室さんは、人間だよ」
俺は先ほどまでの言動を取り繕うようにそう言った。
しかし、小室さんの青白い表情はあまり変わらなかった。
「……うそ。わたし、ぞんび」
「で、でも! ちゃんとこうして俺と会話できているじゃないか。人間である俺と会話できるんだから、小室さんは人間だよ」
俺がそう少し語気を強めてそういうと、小室さんはその死んだ魚のような目を丸くして俺を見る。
「……ほんと、に?」
「ああ! そうさ。小室さんは道端で死体を食ったりしないし、いきなり俺に襲いかかってきたりしないだろ?」
「……でも、わたし、あかいくん、すこし、たべたい」
小室さんは少し恥ずかしそうにそう言った。
そう言われてしまうと俺としても困ったが、それでも俺は先を続ける。
「それは、まぁ……でも、ちゃんとそれを我慢してるじゃないか。やっぱり、小室さんは人間だよ」
自分でもかなり無理のある論理だと思ったが、俺自身はそう思いたかったのだ。




