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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター29
199/204

学園崩壊 5

「……とは言ったものの……」


 俺は教室の中に入って困惑してしまった。


 教室の中はまさに……ゾンビだらけだった。


 椿先生が残したチェーンソーは……教室の机の中央にある。


 その周りにも多くのゾンビが群がっている。とてもそのまま取りにいけるような状況ではない。


「……どうするつもりよ」


 黒上さんが俺の背後からそう言ってきた。


「どうする……かなぁ」


 俺が情けなくもそう言うと、黒上さんは大きくため息をつく。


「……アンタ、どうしてこんな状況でヘラヘラしているのよ」


「え……いや、まぁ……こういう状況はもう慣れているっていうか……」


 俺がそう言うと黒上さんはフッと自嘲気味に微笑んだ。


「……私は、無理ね」


「え?」


 黒上さんはそう言って、銃を手に持ち、目の前のゾンビを見る。


「正直、ゾンビになった川本を見て……限界だって理解した。私はずっと小さな箱の中で王様を気取っていただけ……その箱が壊れてしまった以上……もう、無理」


 そう言って、黒上さんは少しずつゾンビの群れの方に歩いて行く。


「え……ちょっと……黒上さん?」


 俺がそう言うのも聞かず、どんどん、ゾンビの群れとの距離を詰めていく黒上さん……そして、ふと足を止めて、俺の方に振り返った。


「……悪かったわね。色々と」


 黒上さんは不満そうな顔のままで、俺にそう言った。俺は唖然としたままで黒上さんを見ている。


 そして、俺が見ている目の前で、黒上さんは銃を高く掲げたかと思うと……そのまま教室の天井に向けて発泡した。


 パァン、と言う乾いた音が教室に響く……ゾンビの群れが全員黒上さんの方を向いた。


 俺はその時、黒上さんが、何をするために俺と一緒にこの教室についてきたのか理解した。


「川本を……楽にしてあげて」


 黒上さんがそう言ったと共に、俺はチェーンソー目掛けて突進した。


 それと同時にゾンビの群れが黒上さんの方に一目散に突撃していく。


 俺は重たいチェーンソーを持つと、そのまま全力で教室の外に出た。


 そのまま扉を閉め、背中でそれを抑える……


「……黒上さん、ごめん」


 扉の向こうでは肉を引き裂くような、不快な咀嚼音が聞こえる。


 黒上さんは……悪人ではあった。だけど、最初からそうではなかった。


 この状況が……彼女を悪人にしたのだ……そんなことを考えていながらも、俺はチェーンソーを持って三人のもとに戻る。


 廊下では……既に川本さんと紫藤さんが対峙していた。しかし、よく見れば紫藤さんの服は所々斬られてしまっている……


「紫藤さん!」


 俺がそう叫ぶと、三人が振り返る。ゾンビと化した川本さんもこちらを見た。


 俺は瞬間的にチェーンソーのエンジンを入れなければと思った。何度もエンジンをかけるが……中々かからない。


「赤井さん!」


 と、古谷さんの叫び声が聞こえる。


 見ると、川本さんがこちらに向かって突進してくる。


「ブガイシャ……シネェェェ!」


 川本さん、早く動けたのか……俺は冷静にそう思いながらも何度もエンジンをかける。


 川本さんは直ぐ側までやってきていた。そして、大きく刀を振り上げる。


「あかいくん!」


 悲鳴にも似た、小室さんの声が聞こえる。その瞬間、チェーンソーがけたたましいエンジン音をあげて起動する


 俺はがむしゃらにチェーンソーを構え、川本さんの刀を受ける形になる。


 チェーンソーと刀は一瞬鍔迫り合い、まばゆい火花が飛んだが……チェーンソーが容赦なく刀の刃を削っていく……そして、刀は瞬間的に折れた。


 川本さんは一瞬驚いたようだったが……俺はその気を逃さず、川本さんに向けてチェーンソーを振り下ろした。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 俺自身の雄叫び、チェーンソーのけたたましいエンジン音、血しぶき、川本さんの悲鳴……そして、肉を引き裂く音が永遠にも思える時間、廊下に響いたかと思われたが、それはいつしか止んでいた。


 そして、俺はチェーンソーを取り落とした。壊れてしまったのか、既にチェーンソーは起動していなかった。


 ふと、目の前を見ると、血だらけの無残な川本さんの死体……


「……終わった」


 俺は自分の頬に生暖かい血液が跳ね返っているのを感じながら、大きくため息をついたのだった。

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