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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター29
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後戻りできない立場

「……科学者?」


 俺は思わず聞き返してしまった。黒上は小さく頷いた。


「……丁度、町にゾンビが溢れだした頃……アイツはこの学校にやってきた」


 そして、遠い昔を思い出すように黒上は目を細める。


「あの時には既に私は生徒会長になっていたし、この学校の校庭にはゾンビがあふれていた……そんな時に、アタッシュケース一つ抱えて、アイツはこの学校に来たのよ」


「……平野さんは、どこから来たんだ?」


 俺が訊ねると、黒上は首を横に振る。


「さぁ……でも、アイツは初めて会った時から白衣を着てた。最初は医者かと思ったし、本人もそう言ってた……でも、段々おかしいと思ってきたのよ」


「……おかしい?」


 黒上は不意に真剣な顔になって、俺と小室さんを見る。


「ある日、制服組の子が不慮の事故で校庭のゾンビに噛まれたの。私と川本はすぐに保健室に連れて行ったわ。その子は制服組の中でも私達に従順な子だったから、平野に治すようにって命令したの……そうしたら、アイツなんて言ったと思う?」


 俺も小室さんも、皆目検討がつかなかった。すると、黒上は嫌そうな顔をする。


「『私は医者だが、人間を治す医者じゃない。それに、ここにはワクチンはない』って……」


「え……」


 信じられなかった。ワクチンが……ない?


 確かに、バスの中でもワクチンはないと言っていた。 


 でも、先程川本さんにはワクチンを打っていたはずだ。


 だったら、さっき川本さんに打ったワクチンは……


「結局、その子はゾンビになってしまったわ……でも、なぜか平野は、ゾンビになったその子を、校舎から通路でつながっている体育館に運ぶって言い出したの。結局、私達は言われるままに体育館にゾンビになったその子を運んで……でも、入り口の前で私達は帰された……」


 黒上は悲しそうに先を続ける。


「体育館? 平野さんはなんで……」


「……実験よ」


 黒上は忌々しそうにそう言った。それから少し話しづらそうに顔を歪める。


「実験って……それは……」


「……アイツは、どうやったか知らないけど、谷内を助手にしてゾンビになった子たちに実験を繰り返してた……一度だけ、その現場を見たけど……私には耐えられなかった。そのうち谷内もおかしくなっちゃって……でも、平野は私や川本には体育館に近寄らないようにって言ってた……だから、私は――」


「どうして、やめさせなかったの」


 と、ふいに小室さんがそう言った。俺も、黒上も驚いて小室さんのことを見る。


「え……な、何言って……」


「あなた、このがっこうのしはいしゃ。なぜ、ひらのさん、とめられない?」


「だ、だって……わ、私は……」


 そう言うと、黒上は頭の上を軍帽を脱ぐ。


 その下から肩までかかる綺麗な黒髪が見えた。


「……怖かったの……私は……自分が恐ろしいことに……加担しているようで……」


「……黒上さん。アンタ、それはおかしいよ」


 思わず俺もそう言ってしまった。すると、目の端に涙をためた黒上は、怯えた子犬ような目で俺を見る。


「アンタは……角田を殺したじゃないか。普通の人間を……それなのに……そんな態度をとるのは、ズルいんじゃないか?」


 そう言われて黒上は何も言えなくなってしまったようだった。ただ俯いたまま何も言わずに黙っている。


「……話は終わり。帰って」


『ああ、これで終わりだな、生徒会長君』


 その時だった。スピーカーから、声が聞こえてきた。


「え……これって……」


『そして、私の実験も終了した。感謝するよ。モルモットの諸君』


 聞こえてきたのは……間違いなく、平野さんの声だった。

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