表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター29
190/204

孤独な独裁者

「……え、えっと……小室さん?」


「なに、あかいくん」


 結局、じゃんけんに勝利した小室さんと俺が、椿先生のもとに戻り、車の鍵を借りてくることになった。


 それに際して、小室さんは完全に俺の近くをぴったりとくっついて歩いていた。


 無論、小室さんはいつものスピードで歩いているので、俺もそれに合わせて歩く。そのため、歩くスピードはこの上なく遅いものとなった。


「え、えっと……少し、近すぎるんじゃないかな?」


 俺がそう言うと、小室さんは無表情のままに俺のことを見る。


 その目は、明らかに不満を俺に訴えてくるものであった。


「……こむろくん、わたしとちかいの、いや?」


「え……そ、そういうわけじゃ……ないけどさ……」


 よくよく考えて見れば、既に今まで手だって握っているのだ。しかし、どうにも、小室さんにこんなにも近くを歩かれると、どことなく緊張してしまうのである。


「だったら、もんだいない。わたしは、あかいくんのちかくが、いい」


 小室さんは相変わらず表情も変えずそんな嬉しいことを言ってくる。


 俺としては嬉しいのだが……幾分恥ずかしい気持ちもある。


 まぁ、でも今はともかく椿先生のところに小室さんと行くことが重要である。


 俺は気を取り直して再び小室さんにスピードを合わせて歩き出す。


 ちょうどその時だった。


「……ん? あれって……」


 前方に見えたのは……人影だった。


 それは学校の廊下にふさわしくなく、なぜか制服の上を軍服来ており、頭にも帽子を被っている。


 その姿ですぐに、生徒会長の黒上であることがわかった。


 それと同時に黒上も俺と小室さんのことを確認したようだった。


「ひっ……」


 しかし、廊下に響いたのは、小さな悲鳴だった。見ると黒上は不安そうな顔で俺と小室さんを見ていた。


 思わず俺と小室さんは顔を見合わせてしまう。


「あ……アナタ達! な、なんでこんな所にいるの!?」


 震え声ながらも、懸命に黒上は俺と小室さんにそう言ってきた。


「え……そ、それは……」


 よく考えたら不味い状況だった。なにせ今俺と小室さんが見つかったのは、この学園を支配している狂った独裁者である。


 ただ……その様子は酷く怯えていて、まるで俺と小室さんのことを怖がっているようにも見えた。


「え、えっと……俺たちは……」


「そ、それよりも……聞きたいのだけれど……川本と谷内のこと……知らないかしら?」


 と、意外な質問をしてくる黒上。俺は思わず戸惑ってしまった。


 二人が今どうしているかは知っている……そして、谷内に関しては既にこの世にいないことも。


 ただ……どう見ても、黒上の様子はおかしい。ここで下手な刺激を与えるのは得策ではないだろう。


「……いえ、知りません」


「そ……そう……」


 酷く落ち込んだ様子で黒上はそう返事すると、ふらふらとよろめきながら再び廊下の向こうへと歩き出した。


「ふたりとも……私を置いて……どこに行ったのよ……」


 消え入りそうな声でそう言いながら、黒上は廊下の向こうに消えていった。


「……なんだったんだ?」


「あのひと……かわいそうな、ひと」


 俺が思わず呟いた後で、小室さんが無表情に悲しそうにそう言ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ