ゾンビ少女の憂鬱 5
「あ……服は脱げたんだね」
「なんとか。ざんねん?」
「え? そ、そんなことないよ。あはは……」
むしろ、もし服が脱げないなんてことなったら困る。
俺が脱がさなきゃいけなくなってしまうじゃないか。
「じゃあ、服を持ってくるよ。母さんのパジャマのサイズが合うといいんだけど……」
俺はそう言って両親の寝室に向かった。
そして、適当に母さんのパジャマを取ってリビングへ戻ってくる。
「じゃあ、とりあえずこれを着てみて」
「……みられていると、きられない」
「あ、ああ。そうだよね」
俺は仕方なく小室さんの方に背中を向けた。
そして、それからしばらく布がこすれる音がし、通常の人間よりも何分か余計に時間がたった後で音がしなくなった。
「もう、いい」
俺は振り返った。
「あ……やっぱり」
小室さんはやはりパジャマのボタンの部分がすべてとめることができていなかった。
微妙に前がはだけてしまっていて、ちょっとエッチな感じである。
「え、えっと……ボタン。とめていいかな?」
俺がそういうと、小室さんは不機嫌そうな視線を俺に向ける。
「じぶん。できる」
「え? そ、そうなの?」
そういうと小室さんはボタンになんとか手をかけようとした。
しかし、やはり指先が硬くなってしまっているのか、うまくボタンをかけることができないようだった。
「ほら。やっぱりできないじゃないか」
俺がそういうと小室さんは俺をにらみつけた。
死んだ魚のような目だったが、明らかに不機嫌そうな感情を込めて俺を見ていた。
「な、なに?」
「……うるさい。もう、いい」
「え? でも、それじゃボタン開いたままだよ?」
「かまわない。これで、いい」
「よくないよ。ほら、俺がやってあげるから――」
「うるさい」
と、小室さんが、ゾンビとは思えないほどの大きな声を出した。
普段だったら、そんな大きな声を出してゾンビがもし寄ってきたらどうするんだ、と言いたかっただろうが、その時の俺は言えなかった。
小室さんは目に涙を貯めていた。
ゾンビとは思えないほどに人間味たっぷりの悲しみの表情で俺を見ていた。
「ほうって、おいて」
パジャマのボタンが開いたままの小室さんは再びドカリとソファに腰を下ろした。
「あ……髪、乾かさないの?」
俺が聞いても、もう小室さんは返事をしてくれなかった。
どうやら、小室さんの気を害してしまったらしい。
……なんで? 俺、何か悪いことをしただろうか。
まったく何がなんだかわからなかったので、俺は仕方なくリビングを出て、二階の自分の部屋へと向かったのだった。




