ズルい
「……そ、そうですか。そんなことが……」
谷内が自決を図った後、俺と紫藤さんは簡単に小室さん、古谷さんの教室に行くことが出来た。
教室にはたくさんの生徒……制服組が待機していた。
既に生徒会は谷内、川本さん……この2人は現在行動不能だ。そうなると、実質黒上だけで動いているということになる。
その黒上もまだ状況を把握できていないらしい。よって、制服組のクラスは谷内という統率者を失い、自由に、且つ、バラバラに動いていた。
「ああ……ったく、あのヤブ医者。何考えてやがる……」
紫藤さんはイラツイたようにそう云う。俺も同意見だった。
何も殺すことはない……いや、平野さんは殺してはいないのだ。
ただ、何かを谷内にささやいていた。
それを聞いた谷内は、どうしようもなくなって自らの死を選んだ……谷内が自らの死を選ぶほどの事実……一体それはなんだったのか。
「……ひらのさん、あやしい」
小室さんがそのものスバリと俺達が考えていた事実を言った。
その場にいた俺を含む3人が同時に頷く。
「そうですね……あの人、一体何を考えているんでしょう」
「うん……俺もあまり平野さんを完全には信用できない……でも、ワクチンを持っているのは今はあの人だけらしいし……車の運転をできるのもあの人だ」
と、そこまで言うと、紫藤さんが「あ」と小さく声を漏らした。
「え……どうしたの? 紫藤さん」
「……そうだ。おい、赤井。車だよ。あのヤブ医者に運転してもらう車……ジャージ組の先公から貰ってこねぇといけねぇんじゃねぇか」
言われてみれば……それに、俺は今一度制服組の教室を見渡す。
この生徒達も、誘導しなければ今夜の作戦……ゾンビを学校に流入させる作戦の間違いなく餌食になってしまうだろう。
「……うん。もう一度椿先生に遭ってくる必要があるね」
「よし! それじゃ、行ってくるか」
と、紫藤さんが立ち上がった時、ふと、小室さんがその服の裾を引っ張った。
「ん? なんだよ、アリス」
「……ずるい」
「え?」
と、小室さんは相変わらずの無表情だったが、それでもその瞳は、どこか怒っている用に見えた。
「ず、ズルい……って、なんだよ」
「……わたし、あかいくんといっしょにいく」
そう言われて、紫藤さんは困ったように俺を見る。無論、俺としても困ってしまう。
「……そうですねぇ。私もズルい、って思いますよ。できれば、赤井君と一緒に行きたいですねぇ」
「え……古谷さんまで……」
そういって、3人は互いのことを見ている……喧嘩はしなそうな感じだったが。
「……よし。いいぜ。確かに、俺ばっかり赤井といたからな。俺はこの教室で待ってることにする。だがよ。さすがに、赤井と行くのは1人でいいと思うぜ」
紫藤さんの言葉に、小室さんと古谷さんが互いに睨み合っている。
「あ、あのさ……俺は、その――」
「あかいくん、だまって」
取り付くシマもなく、小室さんにピシャリとそう言われてしまった。俺はただ、睨み合う2人を見ていることしか出来ないようだった。
「……いいでしょう。では、ここは正々堂々……文句が出ない勝負で」
「……のぞむ、ところ」
そう言って、2人は立ち上がると、一瞬で決まる勝負を開始した。
「「じゃん、けん……ぽん!」」
そして、勝ったのは……
「……わたし」
小室さんは相変わらず無表情だったが、どうにも誇らしげに俺に、勝利のパーを見せてきたのだった。




