選択の死
「こ、コウメちゃん!? 大丈夫!?」
谷内……と思われる女の子は、酷く心配そうな顔で川本さんの近くに寄っていく。
しかし、川本さんは、ベッドで死んだように眠っている……それを見て、谷内は不安そうに俺……そして、平野さんを見た。
「ひ、平野! コウメちゃ……川本はどうなったんだ!?」
そういってヒステリックに谷内は平野さんに怒鳴る。しかし、平野さんはそれをわかっていたように大きくため息を吐いた。
「見たとおりだ。死んだよ」
……え? 死んだ?
思わず、俺は驚いてしまった。紫藤さんも同様である。
死んだ……確かに平野さんはそう言った。
「し、死んだ……ひ……ひひひっ……な、何を言って……」
「死んだんだよ。屋上から飛び降りてな」
「え……な……なんで……」
谷内は信じられないという顔で平野さんを見る。
平野さんは一歩ずつ谷内の方へ近づいてくる。
「お前は……知っているだろう? 誰のせいでこうなったか?」
谷内は何も言わずに、信じられないという顔で平野さんを見ている。
「……わ、私のせい……で、でも……コウメちゃんは……」
「川本は知らなかっただろう? お前と私が何をしていたか……それを知ったから、川本は死を選んだ……お前のやっていることを、許せなかったんだろうな」
俺と紫藤さんが完全に置いてけぼり状態になっている間にも、事態は進行していた。
谷内は、ベッドの上の川本さんを見て、今一度信じられないとう顔をする。
「……本当に、死んだの? だ、だって、コウメちゃんは……」
「ゾンビといえども、高所から飛び降り、強い衝撃を受ければ死んでしまう……回復不能過ぎるダメージを受ければ、死ぬというのは、私とお前は知っていただろう?」
そう言って、平野さんはポンと谷内の肩を叩く。
「……川本に対して贖罪するんだ。谷内」
平野さんの言葉で、谷内は我に返ったようだった。すると、おもむろに谷内は、白衣のポケットから黒い銃を取り出した。
そして、それをこめかみに当てる。
「……え?」
俺もその光景を見て、ようやく谷内がとんでもないことをしようとしていることを理解した。
それを見て、平野さんは微笑んでいる。
「ごめんね……コウメちゃん……」
「や、やめろ! 谷内、川本さんは――」
俺がそう言い終わる前に、谷内は銃の引き金を引いていた。そして、それはまぎれもなく谷内のこめかみを貫いた。
パァンと乾いた音と共に、谷内の頭部の中身が、保健室の床にぶち撒けられた。
俺はそれを信じられないという気持ちで見ていた。紫藤さんも同様である。
「……バスの爆弾のスイッチの場所は、谷内しか知らない。スイッチが奴等に見つからなければバスが爆発される心配もないな」
そして、平野さんだけが、何喰わぬ顔で、一仕事終えたと言わんばかりに、タバコに火をつけていたのだった。




