私は先生
「ひっく……ぐすっ……」
すでにジャージ部の面々がいる部屋の前に着くと、部屋の中からすすり泣く声が聞こえて来た。
俺は思わず紫藤さんの顔を見てしまう。
「えっと……これって……」
紫藤さんも嫌そうな顔をして、俺のことを見る。
「……まぁ、アイツ、だろうな」
もちろん、その泣き声が椿先生のものであるということは理解できていた。
俺は大きくため息をついてしまう。
わかってはいたことであるが……いざやるとなると、中々難しい。
しかし、やらなければ、この地獄から脱出することは永遠に出来ないのだ。
俺はよし、と心のなかで掛け声をかけ、一気に扉を開けた。
俺が扉を開けた瞬間、部屋の中にいた全員が、俺の方を見た。
案の定、椿先生は、涙で顔をぐしゃぐしゃにして、俺の方を見ていた。
「二人共……角田君が……角田君がぁ……」
そう言い終わらない間に、またしても椿先生は泣きじゃくってしまった。
先生の周りでは、ジャージ部員達が絶望的な表情でその光景を見ている。
「あ……その……角田のことは……すごく、悔しいです……」
「……悔しいですって? もう終わりよ! 角田くんが死んだら、誰が私達を助けてくれるのよ……」
そういってまたしても泣き崩れる椿先生。
おそらく、椿先生は……宮本さんに近いタイプの人間なのだろう。
そして、その心の支えは、角田だった。
その角田が死んでしまった以上……こんな感じに取り乱すのも仕方のないことなのである。
と、俺がそう思っていると、ふと、紫藤さんが、そのまま椿先生の方に向かっていった。
そして、いきなり椿先生の首根っこを掴んで、無理やり立たせたのである。
「ちょ……紫藤さ――」
「おい、テメェ! ふざけんじゃねぇぞ! それはテメェの仕事じゃねぇのかよ!?」
と、ジャージ組の部屋に、紫藤さんの怒声が響く。
椿先生は目を丸くして紫藤さんを見ている。
「テメェは、先公だろうが! 先公だったら、生徒のために身体張って動くんじゃねぇのかよ!」
俺は止めたかったが、あまりにのことに止められなかった。
というか、その場にいた全員が、一様に動きを止めていたのである。
「……そうよね。私……先生なのよね」
しばらくしてから、椿先生は小さな声でそう言った。
それを聞いて、紫藤さんも椿先生から手を離す。
「……ねぇ、二人共。私はこの学園の最後の先生……だから、角田君を失って、初めて気付いたわ」
椿先生は、先程までの泣き声ではなく、酷く落ち着いた……ちょっとこわいくらい落ち着いた声で、先を続ける。
「え……何をですか?」
俺が何も出来ぬままにいると、鋭い目つきで椿先生は俺のことを見てくる。
「……生徒会の子たちに、教師として、指導すべき時が来たんだ、って」




