地獄からの脱出計画 5
「くそっ……あのヤブ医者……適当なこと言いやがって……」
苛立たしげに紫藤さんが俺の隣でそうボヤく。
……まぁ、俺としても正直厄介な提案をしてくれたものだと思った。
実際、平野さんが言ったことは正しい……正しいからこそ、面倒なのである。
俺達がこの学園から逃げ出すためには、何か生徒会の奴等を惹きつける存在がいなければならない……
それをジャージ組にやらせる……間違ってはいないが……
「おい、赤井」
「え? あ、ああ……ごめん」
紫藤さんに声をかけられ、俺は我に返る。
どうすればいいのだろうか……だが、俺にだって、平野さんが提案してきたこと以外に正しい方法がないことはわかっている。
わかっているからこそ、辛いのである。
「……ねぇ、紫藤さん」
「ん? なんだよ」
俺は思わず紫藤さんに話しかけてしまった。紫藤さんは不思議そうに俺のことを見る。
「……僕は、大したこと無い存在だ。この世界を救いたいとかもできないし……たぶん、この学園にいる人全員を救うってことも……できないと思う」
「赤井……」
紫藤さんが俺が言いたいことが分かってくれたようだった。そりゃあ、すでにそれなりに時間を共有しているのだ。察してくれるとは思っていた。
「……だけど、僕が考えているのは、紫藤さん、古谷さん、そして、小室さん……3人だけは、何があっても守りたいと思うんだ」
俺は少し恥ずかしかったが、はっきりとそう言った。
どんな風に思われてもいい……ただ、ここまで一緒に生き延びてきた3人のことは、俺は守りたかった。
俺がそう言い終わると、紫藤さんは大きくため息をつく。
「……俺は頭は良い方じゃねぇからよ……赤井がしようと思ったことに従うぜ。それに、俺は赤井のことを命の恩人だと思っている……だから、赤井がこれからどんな行動に出ようとも、赤井を軽蔑したりしない」
紫藤さんははっきりとそう言った。微塵も迷いなく、まっすぐな瞳でそう言ってくるので、言われるこっちが恥ずかしくなってしまった。
「……あはは。ありがとう。紫藤さん」
「おう。さぁ、行くか」
俺と紫藤さんは二人で、今度こそジャージ組の面々がいるであろう部屋へと向かったのであった。




