地獄からの脱出計画 4
俺と紫藤さんは平野さんのことをジッと見る。
平野さんは特にそのことについて意に介していないようだった。
「え……その……利用って……」
「ああ。今さっき屋上から落ちたのは、角田……ジャージ組のまとめ役だ。アイツが死んだ今となっては、ジャージ組はバラバラだ。特に、教員の椿は不安定なやつで……おそらく君達も知っているだろうが、アイツをそそのかせば私達の逃亡に協力してくれるだろう」
「お、おい、待てよ。それじゃあ、俺達は……」
紫藤さんはそこまで言ってから俺のことを見る。
そうだ。それはつまり、俺達だけで逃げるということだ。ジャージ組は囮である。
「ああ、その通り。奴等が騒ぎを大きくしてくれればくれるほど良い。問題は不安定になった川本だが……いつもの奴ならともなく、今の奴はおそらく正常な判断もままならないはずだ。そうなれば、後の2人はどうとでもなる」
平野さんは自信満々にそう言った。しかし、それには問題があるはずだ。
「……平野さん。そのジャージ組の説得……誰がやるんですか?」
「それは、もちろん、赤井君、君に決まっているだろう」
当たり前だと言わんばかりの顔で、平野さんはそう言った。
俺も勿論そう来ると分かっていた。だから、俺は次のように平野さんに聞き返す。
「……俺がもし、そんなことやらない、と言ったらどうするんです?」
俺がそう言うと、平野さんはニンマリと微笑んでから、胸ポケットからタバコを取り出し、一本口に咥える。
「あり得ない。君はわかっているはずだ。そうするしか方法がない、と。そして、ここまで生き残ってきた君なら、そうする。私にはわかる」
そういってタバコに火を付け、大きく煙と吐き出す平野さん。
その眼鏡の奥の血走った瞳を見れば、この人も正常でないことは俺にもわかった。
「お、おい……赤井」
紫藤さんが不安そうに俺のことを見てくる。俺は決断を迫られていることを理解した。
「……わかりました。ジャージ組に行ってきます」
「そうか。逃走には車が必要だ。私には車がない。バスでは遅すぎるからダメだぞ。どうにかして調達してくれ」
さらっと無理難題を言って、平野さんはまたのんびりと煙を吐き出す。
俺と紫藤さんは、無言のまま保健室を出たのだった。




