ゾンビ少女の憂鬱 4
「あかい、くん。ふろ、わいた?」
「え? えっと、もうちょっとで沸くと思うんだけど……」
すると、風呂が沸いたことを知らせる音楽がリビングに響いた。
その瞬間、小室さんが立ちあがる。
「ふろ。はいる」
「ああ。うん。どうぞ」
そういって小室さんはそのままリビングをゆっくりとした足取りで出て行った。
俺はその様を見ながら、やはりゾンビが風呂に入るというのは納得できないと思った。
ようやく一人になったリビングで俺は大きく伸びをした。
そして、思いっきりソファにダイブする。
そういえば、さっきまで小室さんが座っていた場所なのだけれど……
「……全然、温かくない」
そうか。やっぱりゾンビだから……
今一度俺はそれを思い出し、ソファに座りなおした。
やることもないので、俺は窓の外をぼぉっと眺めていた。
お日様がゆっくりと地平線の向こうに沈んでいく。
夜というのは、寂しい時間だ。
テレビだって今はゾンビ病の流行以来、お笑い番組もアニメも自粛しているのでやっていない。
だから、毎日俺は夜になると早々に寝てしまっていた。
電気を付けているとゾンビが寄ってくる可能性があるし、話し相手もいないそんな暗闇の中でずっと耐えられるほど俺のメンタルは強くない。
でも、今日は違う。もちろん、電気は消すが、一応話し相手はいる。
もっとも、かなり話し方がぎこちないものではあるが。
「あかい、くん」
「え? うわっ!?」
思わず俺はソファから飛び上がってしまった。
なんと、そこにはびしょ濡れ状態の小室さんが立っていたからだ。
なんとかタオルが体に巻きついている……というかへばりついているため、見えてはいけないところは見えなかったが、それでもさすがに驚いた。
「ど、どうしたの!?」
「からだ。うまく、ふけない」
「え? あ、ああ……」
そう言われて俺は、ようやく、ゾンビ病がすなわち、身体を仮死状態にするということを理解した。
つまり、よく知らないが死後硬直ってやつなのだろう。
小室さんがドアを開けられなかったり、ロボットのようにソファに座ったりするのは、体の節々が硬くなっているせいだ。
もっとも、ゾンビというのが死後という状態にぴったり当てはまるのかどうかは疑問だったが。
「あ……え、えっと、全然ダメ?」
「まえ、ふける。せなか、だめ」
「ああ。なるほど。じゃあ、背中は俺が拭くよ」
俺はなるべく小室さんの裸を見ないようにしながら、風呂場へ行ってタオルを取ってきた。
小室さんはびしょ濡れのままリビングに立ちつくしていた。
「えっと……じゃあ、拭くよ」
俺が尋ねると小室さんは小さく頷いた。
そして、俺は濡れた華奢な背中をタオルで拭いた。
きめ細かい白い肌。死人のようだといってしまえばそれまでだけど、やっぱり綺麗だと思った。
あまり見ているのも変なので、俺はあまり背中に注目しないようにしながらタオルで背中を拭いてあげた。
「もう、いい」
小室さんがそう言ったので、俺は背中を拭くのをやめた。




