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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター29
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地獄からの脱出計画 2

「さて、見たとおり……この学校は生徒会の3人の奴等に支配されており、その3人は狂っているので、どうにもこの学校は地獄と化している……というわけだ」


 平野さんは淡々とそう言った。先程の光景……確かに普通ならば絶対ありえない出来事だ。


 だが、考えてみれば人がゾンビになって他人を襲う……そんな異常な状況下であるならばこんなことが起きても可笑しくない……のかもしれない。


 俺達は今まであまり人がいない状況で過ごしてきた。


 だからこそ、誰かが誰かを恐怖や力で縛り付けるってことはなかったのだ。


「……アンタ、考えはあんのかよ」


 ベッドの上から紫藤さんが平野さんに訊ねる。平野さんは小さく唸った後で紫藤さんを見る。


「見ての通り、谷内はアイツらの中で一番武器に詳しい。改造エアガンを作ったのもアイツだ。だが、アイツはとにかく小心者だ。武器をとりあげてしまえばほぼ無力と言える」


 そういって平野さんは俺と紫藤さんを見る。


「で、問題は川本だ。アイツは自分のことを侍か何かと勘違いしているようだな。素早い動きで、今まで反旗を翻そうとしたものも、アイツに切り捨てられた」


「……ああ。俺も喧嘩してわかったぜ。アイツは以上に早い……普通に戦ったんじゃ勝てないんじゃないか?」


「ああ。だが、それももう解決した」


「……は?」


 紫藤さんと俺は思わず顔を見合わせる。


 しかし、なぜか平野さんは得意げな顔でパイプ椅子に座った。


「紫藤君はアイツに噛み付いた……そうだよな?」


「あ……ああ。そうだが」


「……これは私の仮説だが、君達……つまり小室君や紫藤君のようなイレギュラーは、ウィルスのバランスで成り立っていると考えている」


 平野さんは急に真面目な顔つきになってそう言う。それよりも俺にとってはウィルスのバランスという初めて聞く言葉に戸惑いを覚えた。


「……どういうことですか?」


「簡単さ。君達がゾンビ状態でありながら人間としての理性を保っていられるのはゾンビ病のウィルスに対する耐性があるから……体内で一定数のウィルスに対する抗体が存在すると考えられる」


 そして、平野さんは小室さん、そして紫藤さんを交互に見る。


「君たちがより人間らしいか、ゾンビらしいか……それは抗体とウィルスの割合が違うからだ。だから、もし、ある瞬間にそのバランスが崩れる……つまり、大量のウィルスが外部から注入されるようなことがあったらどうなる?」


 平野さんはニヤリと微笑む。


「……はぁ? どういうことだよ? 俺にはさっぱりだ」


 紫藤さんは最初から考えていないようで困り顔でそう言う。だが、俺は平野さんが言った言葉の意味がどういうことか理解していた。


「ぞんびに、ちかづく」


 パチンと指を鳴らして小室さんの指差す平野さん。


「その通り。紫藤君が噛み付いたことにより、大量のウィルスが川本の体内に入った……アイツは今ゾンビに近づいている途中、というわけだ」


「え……でも、それって危険なんじゃ……」


「ああ。だが、アイツが理性を保てない状態になれば、この学校を抜け出す計画はより遂行しやすくなる」


「……抜け出す? この学校を?」


「ああ。何だ? このイカれた学校が気に入ったのか?」


 平野さんは冗談めかしてそういう。俺は小室さんと紫藤さんを見る。


 そうだ……抜け出すべきなのだ。そもそもの目的としては、ここを抜け出し、平野さんが病院に持っているという試作品のワクチンを手に入れる……だったら、こんな地獄はさっさと抜けださなければいけないのである。


「……いえ。残念ですけど、さっさと転校したい気分です」


 俺がそう言うと平野さんは満足そうに微笑んだ。

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