退学処分
「……え? これって……」
「ああ。黒上の声だな」
平野さんは立ち上がると、窓の側に近寄っていく。
『さて……本日は1人。退学者が出たことをお知らせするわ。愚かにも校則を破り、私に反逆した生徒ね』
「……え? それって……」
俺は思い出していた。先程、川本に連れられて階段を登って行ってしまった角田のことを。
「退学者って……ど、どうなるんですか?」
『校則を破った退学者にはもちろん、退学してもらいます。私としては自主退学を望んでいるんだけれど……捕まえてしまった以上、強制退学になるわね』
俺の問いかけには、スピーカーを通して黒上が答えてくれた。
しかし、退学って……どういうことだ? この学校から追い出されるってことか?
「退学というのは……死刑だ」
「……え?」
平野さんは淡々とそう言った。
「言ったとおりだ。退学者は、屋上からこの真下……地獄に突き落とされる」
そういって、平野さんはそれまで閉めきっていたカーテンを思いっきり開いた。
俺と古谷さんは窓際近くまで行ってから、下の光景を覗きこむ。
「……え」
俺は思わず声を漏らしてしまった。
そこはまさしく地獄だった。
それこそ、埋め尽くさんばかりのゾンビが校庭一杯に溜まっていたのである。
「ちょ……ちょっと待ってください。それじゃあ――」
『さぁ。すぐに退学は開始されるわ。皆も見ておきなさい。生徒会長である私に楯突いたものが、どうなるのかを』
黒上がスピーカーからそう言った直後であった。
人影が、窓の上から落ちてきた。
それは、勢い良く地面の方へ落下していくのがわかった。俺は思わず窓を開けて身を乗り出す。
「……嘘だろ」
角田がどうかはわからなかった。だが、窓の下の校庭には、紛れも無く生徒が落ちていたのだ。
落下した生徒の近くには、既に大勢のゾンビが近寄ってきていた。まさしくそれは、地獄の光景だった。
『さようなら、元生徒会長の角田君』
そういってスピーカーはブツリと音を立てて、黒上の声は聞こえなくなったのだった。




