再結集
その後、俺と紫藤さんは平野さんに言われるままに保健室にやってきていた。
平野さんは、紫藤さんに適当に包帯を巻くと、そのまますぐに保健室から出て行ってしまったのである。
「ったく……手当もクソもないだろうが」
「あ……紫藤さん。包帯、とっちゃダメだよ」
紫藤さんは先程巻かれたばかりの包帯を既にとってしまった。しかし、包帯には血はついていたものの、既に胸元に開いた傷はふさがっていた。
俺は思わずその状態をジッと見てしまった。
「……おい。何見てんだよ」
「え……あ、ああ! ご、ごめん……」
恥ずかしくなって思わず俺は顔を逸らす。
それにしても……平野さんは一体どこに行ってしまったのだろうか。
「だ、大丈夫ですか!?」
と、突如として、保健室の扉がいきなり開き、姿を表したのは……
「古谷さん!?」
そこに立っていたのは古谷さんだった。
「あ……赤井君! その……紫藤さんは?」
「え……紫藤さんなら……」
と、俺がベッドの上にいる紫藤さんを指さす。すると、古谷さんはホッと安心したように大きく息を吐いた。
「な、なんだよ……」
「びっくりしました……身体を真っ二つにされて危篤状態だから急いで来いと言われたものですから……」
「……へ?」
俺と紫藤さんは思わず顔を見合わせてしまう。
「いやぁ。悪いねぇ。そうでも言わないと、谷内のヤツが教室から出してくれなかったから」
と、それから少し遅れて悪びれた様子もなく笑いながら平野先生はやってきた。
「わたしは、うそ、わかってた」
「あ……小室さん!」
俺は思わず立ち上がって小室さんの近くに駆け寄ってしまった。
相変わらず無表情だが、その変わらなさを見て俺は安心してしまった。
「あかいくん、ぶじ、よかった」
「俺の方こそ……教室では何か問題が?」
俺がそう聞くと、小室さんは首をゆっくり横に降る。
「べんきょう。させられてた」
「は? 勉強?」
「ええ。ひたすら自習です。あの銃を持った白衣の子が監視していましたが……それ以外は特に何もありませんでしたよ」
「そ、そうなんだ……」
どうやらやはり危険な目に合わされているのは、ジャージ組の面々だけのようである。
「それにしても……アイツら、一体何考えてんだ……」
ベッドの上で苛立たしげに紫藤さんはそう言う。
「奴等が何を考えているか? 簡単さ。この学校の支配……それだけだ」
平野さんはパイプ椅子に腰掛けると、わかりきったことであるかのようにそう言った。
「……支配? へっ。この状況はどうするんだよ?」
紫藤さんが馬鹿にした調子でそう訊ねる。
「生徒会の彼らにとってこの状況はむしろ歓迎すべき状況だ。君たちとは元から考え方が違う」
この状況を……歓迎? 俺には理解できなかった。
でも、あの川本という子も、ゾンビ化しているのに自分のことを「進化」した人類だと言っていたし……
「生徒会って一体……」
と、ちょうどその時だった。
『えー……全校生徒の諸君。おはようございます』
と、いきなり保健室のスピーカーから声が聞こえて来た。
それは、先程聞いたことのある声……まぎれもなく、黒上マツリの声だった。




