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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター28
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ジャージ組の戦い 6

 俺は目を瞑ってしまった。


 あまりにもチェーンソーが怖かったからである。


 というか、既に細切れになっていると思っていた。上半身と下半身がさようならしていると思っていた……


 だが、俺は生きていた。


「え……」


 見ると、椿先生は俺の頭の真上でチェーンソーを構えたまま静止している。


 そして、目から涙をポロポロこぼしていた。


「……椿……先生……?」


「……無理よ。もう、限界……」


 そういっていきなりチェーンソーのエンジンを止めると、椿先生はそのまま床に座り込んでしまった。


「もう嫌よ! こんな……なんで? なんで私ばっかり……」


 すると、いきなり教室の扉が思い切り開いた。外から角田が現れる。


「……限界か」


 俺は唖然としたまま、紫藤さんを見る。紫藤さんも呆然と俺と角田を見ていた。


 鋭い瞳で角田が俺を見る。


「……運が良かったな。椿先生……もう限界みたいだ」


「え? それって……」


 すると、角田は椿先生の近くに歩いて行く。椿先生も角田の方に顔をあげた。


「先生……ジャージ組の部屋に戻りましょう」


 角田がそう言うと椿先生はよろよろと立ち上がった。そして、おぼつかない足取りで廊下を歩いて行く。


「……終わりだ。椿先生はもうお掃除ができない……俺達に存在価値はないな」


 角田は力なくそう言う。


「え……ど、どういうこと?」


 俺が思わず訊ねると、角田は悲しそうな目で俺を見る。


「……黒上共は俺たちにずっと掃除係りを押し付けてた。校舎に入ってきたゾンビ、ゾンビに噛まれたヤツ、黒上に反逆するヤツ……今のお前らみたいに俺が掃除部屋に閉じ込めて……ずっとそれを掃除してきたのは……椿先生なんだ」


「え……じゃあ……」


 俺は絶句してしまった。椿先生が言っていた「私がやってきたこと」っていうのはそういうことか……


「……ああ。俺は……怖くて何もできなかった」


 角田は悔しそうな顔でそう言う。


「ゾンビも怖いけど……黒上達も怖い……でも、何もできないんだ。だから、ずっと椿先生に頼ってた。俺が何聞いても、先生は大丈夫だ、って……」


 そう言ってから角田は俺と紫藤さんを見る。


「だけど、それももう限界だった。椿先生はこわれてしまった……すぐに黒上達にもこのことが伝わる……今度は川本のヤツが俺達を掃除しに来るんだ」


「え……ってことは」


 角田は何も言わずにただ黙っていた。そんなの……可笑しい。どうして、そんな……


「……ありえねぇ。ふざけんじゃねぇぞ」


 と、俺の隣から地獄の底から響くような声が聞こえて来た。見ると、紫藤さんがものすごい形相で怒りを露わにしていた。


「……おい、お前、それでいいのかよ?」


 紫藤さんに聞かれ、角田は何も言わない。


「……チッ。お前はそれでいいかもしれねぇが、俺は良くねぇ。それに、あの変な喋り方の女には不意打ちの怨みがあるからな」


「え……紫藤さん、まさか……」


 俺がそう聞くと、紫藤さんは右の掌に、左の握りこぶしをパチンとぶつけた。


「ああ。今度は、俺がお返しする番だ」

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