ジャージ組の戦い 6
俺は目を瞑ってしまった。
あまりにもチェーンソーが怖かったからである。
というか、既に細切れになっていると思っていた。上半身と下半身がさようならしていると思っていた……
だが、俺は生きていた。
「え……」
見ると、椿先生は俺の頭の真上でチェーンソーを構えたまま静止している。
そして、目から涙をポロポロこぼしていた。
「……椿……先生……?」
「……無理よ。もう、限界……」
そういっていきなりチェーンソーのエンジンを止めると、椿先生はそのまま床に座り込んでしまった。
「もう嫌よ! こんな……なんで? なんで私ばっかり……」
すると、いきなり教室の扉が思い切り開いた。外から角田が現れる。
「……限界か」
俺は唖然としたまま、紫藤さんを見る。紫藤さんも呆然と俺と角田を見ていた。
鋭い瞳で角田が俺を見る。
「……運が良かったな。椿先生……もう限界みたいだ」
「え? それって……」
すると、角田は椿先生の近くに歩いて行く。椿先生も角田の方に顔をあげた。
「先生……ジャージ組の部屋に戻りましょう」
角田がそう言うと椿先生はよろよろと立ち上がった。そして、おぼつかない足取りで廊下を歩いて行く。
「……終わりだ。椿先生はもうお掃除ができない……俺達に存在価値はないな」
角田は力なくそう言う。
「え……ど、どういうこと?」
俺が思わず訊ねると、角田は悲しそうな目で俺を見る。
「……黒上共は俺たちにずっと掃除係りを押し付けてた。校舎に入ってきたゾンビ、ゾンビに噛まれたヤツ、黒上に反逆するヤツ……今のお前らみたいに俺が掃除部屋に閉じ込めて……ずっとそれを掃除してきたのは……椿先生なんだ」
「え……じゃあ……」
俺は絶句してしまった。椿先生が言っていた「私がやってきたこと」っていうのはそういうことか……
「……ああ。俺は……怖くて何もできなかった」
角田は悔しそうな顔でそう言う。
「ゾンビも怖いけど……黒上達も怖い……でも、何もできないんだ。だから、ずっと椿先生に頼ってた。俺が何聞いても、先生は大丈夫だ、って……」
そう言ってから角田は俺と紫藤さんを見る。
「だけど、それももう限界だった。椿先生はこわれてしまった……すぐに黒上達にもこのことが伝わる……今度は川本のヤツが俺達を掃除しに来るんだ」
「え……ってことは」
角田は何も言わずにただ黙っていた。そんなの……可笑しい。どうして、そんな……
「……ありえねぇ。ふざけんじゃねぇぞ」
と、俺の隣から地獄の底から響くような声が聞こえて来た。見ると、紫藤さんがものすごい形相で怒りを露わにしていた。
「……おい、お前、それでいいのかよ?」
紫藤さんに聞かれ、角田は何も言わない。
「……チッ。お前はそれでいいかもしれねぇが、俺は良くねぇ。それに、あの変な喋り方の女には不意打ちの怨みがあるからな」
「え……紫藤さん、まさか……」
俺がそう聞くと、紫藤さんは右の掌に、左の握りこぶしをパチンとぶつけた。
「ああ。今度は、俺がお返しする番だ」




