ジャージ組の戦い 5
「え……そ、そんなことできるわけないでしょ……」
俺がそう言っても、椿先生はニヤニヤしているだけである。
「そんなことないわ。皆こんな状況なら自分の命が一番ですもの……特に、君たちのような学生は仕方ないことなの……私は先生だから君たちを守る義務があるけど……ね? だから、そっちのゾンビの子を渡して頂戴?」
椿先生は完全に理論が破綻したことを言う。もちろん、紫藤さんを渡すつもりはない。
「……渡さないと……どうするんですか?」
俺は思わず訊いてしまった。すると、椿先生はチェーンソーで手近にあった机を真っ二つにする。
「まぁ、こうするわね。危険な存在は抹消しないと。それが、教師である私の御仕事だから」
そういって椿先生は焦点の合っていない瞳で俺たちを見ている。なんとなくだが、この人は宮本さんと同じようなタイプでということがわかった。
でも、宮本さんほど壊れてしまってはいない……なぜなら、壊れてしまっていれば、とっくに俺たちをチェーンソーで切り刻んでいるはずだ。
だとすれば……説得の余地はある。
「……嫌です」
俺ははっきりとそう言った。すると、椿先生はキョトンとした顔で俺を見る。
「何を言っているの? そのゾンビの子を差し出せば助けてあげるって言っているのよ? それなのに……なんで?」
「……紫藤さんはゾンビじゃありません。人間です」
俺がはっきりとそう言うと、椿先生は少し動揺したようだった。
「な、なんで? なんでそんなこと言うの? 人間? 違うわ。その子はゾンビよ……」
「違います。意識ははっきりしているし、言葉も理解できる……それはまぎれもなく、人間なんです」
「そんな……だったら、今まで私がしてきたことは? ここで、そういう子達もお掃除してきちゃったのよ? それじゃ……」
……あれ? なんだか不味い方向に話が進んできている。
椿先生は両目から涙を流しながら、チェーンソーを振り回す。
「それじゃあ……私がやってきたことは何なの? 私は……生徒を……」
「つ、椿先生、落ち着いて下さい!」
すると、椿先生の動きがピタリと止まった。そして、ゆらりと不穏な動きをしながら、こちらを見る。
「……最後の警告よ。そのゾンビの子を見捨てなさい」
「え……そ、そんなことできません!」
「……わかったわ! アナタもゾンビになっているのね! いいわ! アナタごと、お掃除してあげる!」
そういって椿先生はそのまま俺の方に突っ込んできた。
「あ、赤井!」
紫藤さんの叫び声が聞こえる。
でも、ここで動いたら紫藤さんがチェーンソーで切られてしまう……
そう考えている内に、目の前にはチェーンソーを大きく振りかぶった椿先生が迫ってきていたのだった。




