ゾンビ少女の憂鬱 3
リビングに戻ると小室さんが先ほど同じようにソファに座っていた。
「あー……テレビでも見る?」
俺が聞くと、小室さんは頷いた。
俺はテレビにつながったイヤホンを外し、リモコンでテレビのスイッチを入れると、同時にギリギリ聞こえる程度の音量でテレビを付けた。
本来ならば絶対にそんな行為はしないが、家の中に自分以外の誰かがいるという安心感が、そんなゾンビを引き寄せてしまうかもしれない行為を可能にしたのである。
『お昼のニュースです。以前、ゾンビ病に対する有効なワクチンは作成中とのことで、ワクチンの配布がいつになるかは、厚労省も目途が立っていないようです』
その途端、小さな音量ながらも、そんなニュースが飛び込んできた。
考えてみれば、朝に俺がそのまま出家から出てきたのだから、ニュースにチャンネルがあっていて当たり前である。
『さらに政府は、国会で「緊急ゾンビ病対策チーム」の結成を審査する議案を提出しました。今後、国内でゾンビ病がこれ以上の勢いを見せる場合、強制的に患者の方を隔離地域に移動させることも検討している模様です』
おまけに嫌なニュースも飛び込んできた。
いや、俺一人ならばさして嫌なニュースとは思わないない。
でも、こんなニュースをゾンビの女の子と一緒に見たくはなかった。
俺はちらりと小室さんの方を見る。小室さんは、死んだ魚のような目を見開いてテレビの画面を見ていた。
思わず俺はテレビを消してしまった。
「あ」
「え? み、見てた?」
小室さんが不機嫌そうな視線を俺に向ける。
だって、対策チームって……それは最近のニュースを見ていればわかるが、つまりは駆除チームのことだ。
ワクチンの完成が目途が立たない政府としては、これ以上国のシステムを妨げるゾンビ病患者を一斉に駆逐したいって腹だっていうのは、別のテレビ局の評論家が言っていた。
つまり、理性があろうがなかろうが、ゾンビは駆除されてしまう。
そうなれば、小室さんだって……
「てれび。ひさしぶり。みた」
「え? ああ。そりゃあ、二週間もあのトイレにいたんだもんね」
「あかいくん。いつも、てれび。みてる?」
「まぁ、唯一の話し相手っていうか……俺もいつワクチンできるか知りたいしね」
しかし、ここ数週間のニュースを見ても、ワクチン完成の目途は立っていないという繰り返しだ。
こうなると駆逐部隊が出動する方がいよいよ現実味を帯びてきた。
となると、やはり目の前の美少女も、そんな駆逐部隊の餌食になってしまうのだろうか……
そう考えると俺はなんだか悲しくなってきた。




