狂った世界へ 3
「さて……アナタ達は見たところ、ゾンビ3人に人間1人……随分とおかしな組み合わせね」
黒上はニヤニヤしながら俺達4人を見る。紫藤さんは未だに川本に突き刺された胸元を擦りながら、辛そうな顔をしている。
「ま、見ての通り、川本はゾンビよ。私と谷内は人間。だからって別に私は川本を差別しないわ。私達はこの学園の生徒で、友達だもの」
「閣下……ありがたき御言葉、恐縮です」
なぜか嬉しそうな顔で頭を下げる川本。俺と古谷さんは思わず顔を見合わせる。
「え……えっと、では、私達も差別はしないってことですか?」
古谷さんがそう言うと、黒上はニコニコしながら頷いた。
「ええ。差別はしないわ。でも……格差は存在するわね」
「え? 格差?」
古谷さんが戸惑っていると黒上はなぜか古谷さんの方に近づいてくる。
そして、目と鼻の先まで近づいて古谷さんと対峙する。
「ふぅ~ん……川本以外の意識のあるゾンビは初めて見たわ。案外綺麗な顔のままなのね」
「あ……ありがとうごございます」
「綺麗な子は好きよ。後、私に反逆しない子もね」
そういって、黒上は紫藤さんのことを見る。紫藤さんは鋭い目で黒上を睨み返した。
「話の途中だったわね。格差……つまり、この学園には差別はないけれど、階級は存在するわ。私達はこの学園を管理する生徒会、そして、共に生活をする生徒の皆……大きな枠組はそれだけど、その他にも階級が存在するの」
そして、黒上はチラリと窓の外に目をやる。
「……平野先生から聞いたかもしれないけれど、簡単に言えば、教室で学習を受けられる制服組、そして、雑務や清掃業務に携わるジャージ組の2つ……それだけよ」
そういってニコニコしながら、今度は黒上は俺の方に近づいてきた。
「悪いんだけれど、男の子は力があるから、ジャージ組に決定なのよね? いいかしら?」
「え……えっと……」
「おい。そのジャージ組っていうのは、どんな雑用をさせられるんだよ?」
紫藤さんが苦しそうな表情で黒上に訊ねた。すると、黒上はニコニコしたまま紫藤さんの近くに寄っていく。
そして、いきなり紫藤さんの腹に向かって思いっきりヒザ蹴りをかましたのである。
「がはっ……」
苦しそうに腹を抑えながら倒れこむ紫藤さん。
「ちょ……な、何しているんですか!?」
思わず俺がそう言っても、黒上はニコニコしながら俺のことを見る。
「私、その子のこと、気に入らないわ。私が気に入らない存在は、人間だろうとゾンビだろうと、全員ジャージ組。さぁ、川本。その2人を1階に連れて行きなさい」
「わかりました。閣下」
黒上がそう言うと、川本は刀を抜き、俺と紫藤さんに向かって突きつける。
「さぁ。さっさと歩け」
仕方なく俺は紫藤さんを抱えながら立ち上がった。
「あかいくん」
と、扉を出る時、小室さんが悲しそうな声で俺の名前を呼んだ。
俺は振り返って小室さんを見る。そして、無理やり笑顔を作って微笑んだ。
……どうやら、俺達はとんでもないところに来てしまったようであった。




