狂った世界へ 1
「さて。そろそろ奴等の元に行くとするかな。いい加減私が君たちを連れて逃げた思われそうだからね」
そういって平野さんはバスから降りて歩き出した。俺達もそのままバスから降りる。
「その……この学校、生徒会が支配しているんですか?」
「ああ。奴等がこの学校の実質的な支配者だ。他の生徒や私のようなものはその支配下にある……そして、これから君たちもその支配の中に入るというわけだ」
「はっ。馬鹿じゃねぇの。どんなやつだか知らねぇが、そんな馬鹿な真似が通用すると思ってんのかよ」
紫藤さんは馬鹿にした感じでそう言うと、平野さんは真剣な顔で紫藤さんを見る。
「通用する。残念だが、君たちではおそらく奴等には勝てない。だから、下手な真似はしないほうがいいぞ」
平野さんの言葉に、紫藤さんは少し戸惑っていたが、それでもあまり信じてはいないようだった。
俺だってそんなことは信じられない。
そもそも、生徒会に学校全体を支配することなんてできるものなのだろうか……
「まぁ、とにかく、用心するに越したことはない。私はこの学校内部では表立って君たちの味方をすることはおそらくできないだろう。だから、くれぐれも気をつけることだ」
平野さんはそういって学校の裏口らしき扉を開いた。俺達はその先へと進んでいく。
学校の中はシーンと鎮まりかえっていた。
とても誰かがいるような気配は感じられない。
「え……本当に生徒なんているんですか?」
「ああ。先程バスに乗っていた連中、そして、生徒会の奴等……合わせると大体50人くらいがこの学校内で生活している」
暗い廊下を歩きながら平野さんは淡々と俺達にそう説明する。
「生活って……どうやって?」
「君たちが見たのは雑用係という連中でね。彼らが食料確保を担当するんだ。他にも色々やるハメになっている」
雑用係……あのジャージを着た集団がなんとなく悲しそうな感じだったのはそういうことだったのだと俺は理解した。
「雑用係はざっと30人くらいいる。その他の生徒は教室で勉強することを許可されている。こっちは教室組と生徒会の奴等は呼んでいるな」
「教室組? っていうか、許可されているって……生徒会に?」
「ああ。不穏な動きをすれば、雑用係に落第させられるし、逆に有用な働きをすれば雑用係から教室組に昇格もある……まったく。この状況下でよくもまぁこんなシステムを思いつくものだ」
なぜか感心した感じでそういう平野さん。生徒会……話を聞いているとなんだかとんでもない連中であるような気がしてきた。
「……あかいくん」
と、いきなり背後から小室さんが小声で話しかけてきた。
「え……何? 小室さん」
「……このがっこう、いやなふんいき……きをつけたほうがいい」
どうやら小室さんも同じことを考えていたらしい。俺達はとんでもないところに足を踏み入れてしまったようである。
「さて……ここが問題の生徒会だ」
と、いつのまにか俺達は生徒会室と書かれた表札がある部屋の前に立っていた。
「私は学生生活のことまでは干渉できない。何かあれば私は隣の保健室にいるから……くれぐれも生徒会の奴等に逆らうな。機会を待つんだ」
そういって平野さんは手を振りながら、隣の部屋の扉を開けた。
「……さて、どうするかな」
俺達四人は生徒会室の表札を見ながら、考えこんでしまったのだった。




