打開策の話 2
「えっと……それで、どうすればいいんですか?」
俺がそう訊ねると、平野さんは腕組みをして唸る。
「……これから私が言うこと、何があっても絶対に言わないと誓えるか?」
真剣な顔でそう言う平野さん。俺達四人は顔を見合わせて頷いた。
「そうか……実は、ワクチンの試作品なら私は幾つか持っている」
俺達は何も言わずただその言葉を聞いていた。
そして、しばらく経ってからようやく平野さんがとんでもないことを言ったことを理解した。
「それ……本当なんですか?」
古谷さんが怪訝そうな顔でそう訊ねる。
「ああ。ただ、今は持っていない。この学校にはない」
「じゃあ、どこに?」
「病院だ。ここから車で1時間程度だ」
「え……それなら、このバスでさっさと病院に言ってしまえばいいじゃないですか」
古谷さんがもっとも意見をいうが、平野さんは首を振る。
「奴等がそんなことを許してはくれない。奴等にもワクチンがあることは言ったんだが……奴等にとってはワクチンなんて無い方がいいようだからな」
「奴等って……?」
「この学園の生徒会の奴等だよ」
生徒会……なんだかこの状況下でもっとも現実感のない言葉だ。
大体学校がこんな状況なのに、生徒会も何もあったものじゃないではないか。
「おいおい。生徒会如きが許さないくらいなんだよ。さっさとバスで強行突破すれば良い話じゃないか」
紫藤さんがイラついた調子でそう言う。
「いや……残念だが、このバスはダメだ」
そう言うと、平野さんはバスから降りる。
「え、どこ行くんですか?」
平野さんはバスから降りると、なぜか地面にバスの下を覗きこむようにしゃがみこんだ。
「赤井君。来たまえ」
言われるままに、俺は平野さんと同じようにしゃがみ込む。
「え……なんですか。あれ」
すぐにわかったが、バスの裏になにやら赤いランプが点灯する物体がくっついている。
「リモコン式爆弾だ。まったく……あの谷内という生徒はいわゆるミリオタってヤツなのか……ああいうものをなんでも作ってしまうんだ」
「え……あれ。本物ですか」
「さぁな。だが、君達も見たのじゃないのか。谷内が殺傷能力のある武器を作っているところを」
言われて俺は夕樹さんに向けて発射された銃のことを思い出した。
確かにあれも本物同然の威力を持っていた。だとすると、この爆弾も……
「とにかく、私が勝手にバスを動かせば爆弾が作動する。だから、私はここから出られないんだよ」
「なんですかそれ……あの人、狂っているんじゃないですか?」
古谷さんが怒ったようにそう言うと、ニンマリと微笑んで平野さんは俺達を見る。
「フッ……むしろ、私にとっては、この状況下で狂っていない君達の方が異常だよ」
そういう平野さんの笑みも、どこか狂気を孕んだものなのであった。




