打開策の話 1
「え、えっと……診断って……俺は、その……」
「赤井君は感染者ではない。ああ、そんなのわかっている」
平野さんは拍子抜けする感じでそう言った。俺は思わず他の3人の顔を見てしまう。
「その……アナタは、私達に何か話したいことがあるんじゃないですか?」
古谷さんがそう言うと、平野さんは小さく頷いた。
「察しが良くて助かる。では、単刀直入に聞くが、君たちニュースは見ているか?」
「え……あ、ああ。俺は見てますけど」
予想外の質問に俺は困惑しながらもそう返事する。
「そうか。なら話は早い。この病気……私はこの呼称はあまり好きではないのだが、ゾンビ病と呼ぼうか……これに対するワクチンを国は未だに開発していないと報道しているのはわかるな?」
「え……ええ。いつまで経ってもできない感じですけど」
「……それが実は既にできているとしたら、どうする?」
平野さんは眼鏡の奥の鋭い眼光で俺達を見た。俺は思わず言葉を失ってしまう。
ワクチンが既にできている……だとすれば、この状況はもう既に改善されるんじゃないのか?
「おい、アンタ……それ、本当なのか?」
と、次に怪訝そうにそういったのは、紫藤さんだった。
「フッ。嘘を言ってどうする。私はこれでも医者だぞ。患者に嘘はつかない主義だ」
「患者って……俺達は別に病気じゃねぇぞ」
「いや。病気だ。これは、明確な病気なんだ」
平野さんは断定的にはっきりとそう言った。
その言葉に、紫藤さんだけでなく、俺や小室さん、古谷さんも黙ってしまう。
「……おそらく、君達は今この世界で起きている状況を映画かなんかのゾンビと一緒にしているんだろうが……これは単純な病気だ。ワクチンがあれば治すことができる」
「え……それは、ぞんびじょうたいで、あっても?」
小室さんがたどたどしい言葉でそう言うと、平野さんは頷いた。
「ああ……先程私がバスで跳ね飛ばした患者……あんな状態であっても、ワクチンを打てば完治する。もちろん、バスにはねられても一日後には回復するような能力は失われるがね」
平野さんの話す内容に、俺達は言葉を失ってしまった。
夕樹さんが言っていた打開の鍵……それがまさに平野さんだということは、もう疑いようがなかった。




