ゾンビ少女の憂鬱 2
「な、に?」
相変わらずぎこちなく、小室さんは聞き返してきた。
「その……俺のこと、食べたくならないの?」
俺の質問に、青白い肌のゾンビ少女は、不思議そうな顔で俺を見返していた。
「いま、は、そんなに」
「え? 今、は?」
俺が聞き返すと、小室さんは小さく頷く。
「ぞんび、になてから、ときどき、にく、たべたく、なる。あかいくん、のことも、ここにくるまで、すこし、たべたい、とおもた」
「そ、そうなんだ……」
無表情でそういうゾンビ少女の言葉に、俺は少し背筋に冷たいものを感じた。
……ってことは、やっぱり俺のことを食べたいっていう点は、他のゾンビと変わらず持っている感情ってことか……
少し恐怖を感じつつも、今更追い出すこともできないので、俺はそんなやり場のない気持ちをため息とともに吐き出した。
「……わたし、こわい?」
「え? あ、いや、まぁ……」
俺のため息の音を聞いたのか、小室さんは少し不安そうな声で聞いてきた。
「だたら、べつにおいだして、いい、よ」
「え? あ、いやいや。いいよ。俺も、話し相手ほしかったしね」
俺は取り繕うように笑顔を作った。
確かに食われるかもしれない可能性はあるが……こうして誰かと会話できるというのは何より俺にとって幸福だった。
その相手がゾンビで、会話がこの上なく辿々しくても俺にとっては十分だった。
「そう、だ」
会話が終わったと思った矢先、小室さんがいきなり立ち上がった。
「え? 何?」
「おふろ、かりたい」
「風呂? え……ゾンビなのに?」
俺が思わずそう言うと、小室さんは怪訝そうな視線で俺を見る。
「ぞんび、たしかに、あせ、かかない。でも、わたし、ふろ、はいり、たい」
「あ……わ、わかったよ。じゃあ、今沸かすから待ってね」
俺は慌てて風呂場に向かった。
そして、そのまま風呂場の操作パネルでスイッチを押す。
「……入って、大丈夫なのかな」
ここまで行動してから、俺は今更ながらに思う。
ゾンビが風呂に入るとか、シャワー浴びるとか聞いたことないけど……そもそも理性がないから風呂なんて言い出さないだろうし。
そもそもゾンビって死体なんだから、風呂に入る必要もないのか?
いや、それだと腐っちゃうし……いや、そもそも映画に出てくるゾンビなんかは腐っているっていうのが普通だし……
「……よくわかんないけど、まぁ、仕方ないよな」
かといって、小室さんが言ってきているのだ。
俺は自分自身を無理やり納得させ、そのままリビングに戻ることにした。




