学校行きのバス 3
「で、君たちはずっとあのデパートにいたのか?」
バスが出てからすぐに、平野さんは気さくに話しかけてきた。
「え……いや、違います。あそこに来る前は家にいました」
「家? 家って……それはえっと……」
「あ。俺、赤井レオです」
「ああ、赤井君。赤井君の家に、他の子も一緒にいたのか?」
「はい。で、食料が減ってきたので、デパートに……」
「へぇ。つまり、君たちはずっとサバイバル生活だったというわけか」
サバイバルと言われるとそれは微妙な気がする……ずっと家に立てこもっていたわけだし、何より俺は他の四人がいたからこそ、ここまでやってこれたわけだ。
「……おい。ちゃんと集中して運転しろ」
と、俺と平野さんが喋っていると、白衣の女の子――平野さんが谷内と読んでいた――が運転している平野さんに銃口を向ける。
すると、平野さんはニヤリと不健康そうに微笑む。
「フッ……いいのか? 会長閣下の許可無く私を殺しても?」
そう言われると悔しそうにしながら谷内はギュッと下唇を噛んだ。すると、なぜか得意そうに平野さんは俺にウィンクする。
「とまぁ……私は彼女たちに安全を保証されているんだ。だから、こうして生きながらえた……君も似たようなものかな?」
まるで俺の状況を見透かしているかのように、平野さんはそういった。なんだかつかみ所のない人だが……甘く見ないほうがいいかもしれない。
「えっと……それで後どれくらいで着くんですか? っていうか、彼女『達』って……うおっ!?」
俺がそう話していた、その時だった。
バスは鈍い音を立てて何かを跳ね飛ばした。
俺は一瞬だったが、それが道を歩いていたゾンビだということを確認した。
「え……えぇ!? ちょ、ちょっと! 平野さん!?」
「ん? どうした?」
「い、今……」
「今? ああ……まぁ、よくあることだ。だが、跳ね飛ばされた彼らも、一日すれば元に戻る。もっとも、跳ね飛ばす時の感触が嫌だから気を付けてはいるんだけどな」
まるで何事もなかったかのように、平野さんはそういった。
俺はその瞬間、やはり、この人もどこかおかしいことを理解した。
思わず隣と後ろの席にいる小室さん、紫藤さん、古谷さんを見る。3人も信じられないという顔をしており、俺と目が合うと不安そうな表情になった。
「まぁ、学校に着くまで気をつけるから、安心してくれ」
そう軽口を叩く平野さん。
俺はそれ以降、集中して運転してほしかったので、平野さんには話しかけなかった。




