冷静な臆病者
「えっと……俺としては、この状況を打開する鍵があるのなら……それに賭けるべきなのかもしれない、って思う」
俺がそういうと小室さん、古谷さん、紫藤さんは黙ったままで俺を見た。
「もしかすると、夕樹さんが言っていることは嘘かもしれない。当初の目的通り、このデパートで過ごす方が、どう考えても安全だと思う」
「……ということは?」
古谷さんがそう言って俺の事を見る。
俺は思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまった。
「えっと……ということで……しばらくは、このデパートにいたほうがいいと思うんだよね……」
俺は苦笑いしながら、そう言ってしまった。
……敢えて、常識に逆らってみたのだ。
確かに、ゾンビ映画なんかだと、どう考えてもこの展開だと、次なる目的地に進んでしまう。
でも、そういう時は、たいがいロクでもない……つまり、面倒くさい事態に遭遇するのである。
それを考えれば、このデパートにもう少しの間いた方が安全だし、確実だ。
食料だってあるし、電気だってまだ通っている。
少なくとも後数日は、デパートで世界の変化を確認した方がいい。
俺はそう考えたのだった。
「はぁ……ったく、赤井……お前ってやつは……」
最初に口を開いたのは、紫藤さんだった。
「え……やっぱり、ダメ……かな?」
「いいえ。むしろ、安心しました。赤井君、やはり赤井君は冷静ですね」
「え……古谷さん?」
古谷さんはなぜか満足そうに微笑んでいた。
「ここで、勢いだけで学校なんかに行くと言い出していたら、夕樹さんとの件も含めて、赤井君との付き合い方を考えようと思っていましたが……大丈夫なようですね」
「古谷さん……」
俺は思わず安心してしまった。
「今の選択で、私も紫藤さんも、夕樹さんの件は水に流します。まぁ、私は別にそんなに赤井君のこと、怒ってなかったんですけどね」
そういって古谷さんは紫藤さんのことを見た。
「はぁ? さっき赤井がいなくなった後『言い過ぎたでしょうか……』って深刻に言っていたのはどこのどいつだよ!」
「う、うるさいですね!」
そういって紫藤さんと古谷さんはまたしてもにらみ合い始めた。俺は思わず笑ってしまう。
「あかいくん、よい、せんたく」
「あ……小室さん」
小室さんにそう言われて俺は本当に安心してしまった。
もちろん、ずっとデパートに居る気はない。
それでも、なんとなく皆の反応を見ていると、なんとか正しい選択ができたのだ、と実感したのだった。




