ゾンビ少女の憂鬱 1
玄関の扉を開けた瞬間、安心感が俺を出迎えてくれた。
とりあえず、家の中に入れば安心である。
通常、家の中まではゾンビは入ってこないからだ。
といっても……そのゾンビを家の中に自ら招き入れることになるとは、俺自身思ってもみなかったのだが。
「おじゃま、します」
礼儀正しく、小室さんはぎこちなく一礼する。
「あ。うん。入っていいよ」
「あかい、くん」
「ん? 何?」
「くつ。ぬげない」
「え? あ、ああ。そうなんだ」
その言葉を聞くと、俺はしゃがんで、小室さんの靴を手でつかんで、その細い足首を持った。
「あ……ごめんね。勝手に触っちゃって」
「いい。くつ、ぬげないまま、いえ。はいれない」
「あ、そ、そうだね……はい。いいよ」
靴を脱がすと、俺は玄関から家のリビングの方へ向かう。
俺が待っていると、それからしばらくして小室さんがゆっくりとした速度でリビングに入ってきた。
「ここがリビングだから。ゆっくりしていってよ」
「かてに、つかて、いい、の?」
「え? あ、ああ。勝手に使っていいかってことか……まぁ、別に今はこの家に俺しかいないし……とりあえず、ソファにでも座ってよ」
俺がそういうと、小室さんはロボットのようにぎこちない動きのままで、ソファに腰掛けた。
そもそも、ゾンビとはいえ女の子を家に連れ込んじゃって……よくよく考えたら不味かったかな。
そもそも、それまでの気ままな独り暮らしから一変した雰囲気が、リビングに漂う。
「あー……何か、飲む?」
思わず会話のない沈黙に耐えられず、俺は小室さんに尋ねた。
「いらない。のど、かわいて、ない」
「そうなの? でも、二週間ずっとあのトイレいたんでしょ?」
「ぞんび、になると、おなか、へらない。のども、かわかない、みたい」
「へぇ……そうなんだ」
小室さんの言葉は興味深いものだった。
仮にゾンビが飲まず食わずでも生きていられるのだとしたら、すでに一ヶ月以上経ったというのに、外に餓死した状態のゾンビがいないのも納得できる。
しかし、だとするとなぜゾンビは人間を食べようとするのだろうか? そういうところは映画のゾンビと一緒で、特に理由もなく人肉を食べたくなってしまうのだろうか。
「あ、あのさ。ちょっと失礼なこと聞いていいかな?」
俺は気になったので早速訊いてみることにした。




