優柔不断の代価 4
「話、聞いたわよ」
夕樹さんは憮然とした態度で俺のことをジッと睨んでいた。
「え……話って?」
「だから……アンタがマジでドーテーだってこと!」
縛られたままだというのに、夕樹さんは身を乗り出して俺にそう怒鳴った。
俺はいきなりのことに少し戸惑ってしまった。
「え……ど、ドーテー……って……」
「聞いたわよ。アンタ、この子に相当世話になっているそうね」
そういって夕樹さんは顎で小室さんを指す。小室さんはキョトンした様子で俺を見ていた。
「……あ、ああ。もちろん。かなり世話になっているよ」
「だったら、どうしてアンタはこの子に何もしてあげてないわけ?」
「え……な、何もしてない?」
俺がどういう意味かわからず尋ね返すと、夕樹さんは大きくため息をついた。
「アンタねぇ……この子、無表情だからわからないけど、アタシのことを引っ叩いた時も、すごく怒っていたらしいわ」
「そう。わたし、まじ、おこってた」
と、小室さんが俺に向かってそう言う。
「え……ま、まじって……」
「そりゃあそうでしょ。ドーテー君、この子がああでもしなきゃ、アタシの言っていることに反論できなかったでしょ?」
そう言われて、俺は確かにあの時、何もできなかったことを思い出した。
そして、今一度小室さんがあの状況を救ってくれたことを認識する。
「……うん。そうだ」
「だったら、この子に言うことあるでしょ?」
夕樹さんにそう言われて俺は、小室さんのことをもう一度見る。
「小室さん……ありがとう」
俺がそういうと小室さんは無表情で俺のことを見ていた。
「……ったく。これだからドーテーは……アンタわかってるわけ? アイツ等なんかよりよっぽどこの子の方がアンタのことをわかってんのよ?」
「アイツ等って……紫藤さんと古谷さん?」
「そうよ。だから、アンタが身体を張ってでも守ってあげなきゃいけないのは、この子なの。わかった?」
呆れた顔で夕樹さんはそう言った。俺はチラリと小室さんを観る。
「ゆうきさん、それ、いいすぎ」
「はぁ? いいのよ。これくらいの方が。じゃないと、このドーテー君は、自分にとって誰が一番大事かわかんないんだから……」
俺はなぜだかわからないが、その時、ものすごく夕樹さんに馬鹿にされ、酷く軽蔑されていた。
小室さんの方は相変らず俺のことを無表情&死んだ魚のような瞳で見つめていたのだった。




