優柔不断の代価 2
「……ったく、アイツらしいなぁ」
残された紫藤さんが呆れたようにそう言った。
「……古谷さん、怒ってるよね」
「ああ。そうだな。ま、俺も怒ってない、っていえば、嘘になるけどよ」
「……ごめん」
残された俺は紫藤さんにも、申し訳無さそうに頭を下げた。
「いや、別に。お前がお人好しだってことは、ゾンビに噛まれた俺を助けた時からわかってた。今回はそのお人好しが裏目に出た、ってだけの話だよ」
「……でも、俺は……」
「古谷の言うことを聞かずに、夕樹に会いに行った……確かに、それは不味かったよな。でもよ、アイツ、お前に一度も『自分たちといるのが嫌なのか?』とは聞いてなかったよな?」
「え……あ、うん」
紫藤さんは俺にそう言うと、優しそうな笑顔を向けて俺を見た。
「お前があの性悪女に最初に会いに行った時、俺とアリス、古谷の三人だけになった。その時に俺がふと『やっぱり人間の方がいいのかねぇ』と言ったら、アリスと古谷、二人して『そんなことない』ってはっきり言ったんだよ」
「え……」
俺の驚いた様子を見て、紫藤さんは嬉しそうに微笑んだ。
「フフッ……つまりさ、アリスと古谷は、お前があの性悪女に騙されたことには怒っている。だけど、お前が自分たちのこと『人間』だって思ってくれていることは信じているってわけだ」
紫藤さんの言葉を聞いて、俺は黙ることしかできなかった。
そうだ。俺ははっきり言ったのだ。
小室さんと古谷さんを俺は人間だと思っている、と。
「……で、実際どうなんだよ。お前は俺達のこと、人間だって思っているのか? それとも、やっぱりあの性悪女が人間だと思ったから、アイツに会いに――」
「違う!」
俺は思わず大きな声でそう言ってしまった。そして、紫藤さんをジッと見る。
紫藤さんは驚いていたようだったが、すぐに安心したようにニカッと微笑んだ。
「だよな。それでこそ、俺が信じた赤井だよ」
そういって立ち上がると、ポンポンと紫藤さんは俺の頭を叩いた。
「アリスのとこ、行ってやれ。アイツ、1人であの性悪女のこと、見張ってるから」
「あ……紫藤さん」
そのまま行ってしまいそうな紫藤さんに、俺は思わず声をかけた。
「ん? なんだ?」
「あ……その……ありがとう」
俺がそう言うと、紫藤さんは少し恥ずかしそうに顔を背けて、そのまま行ってしまったのだった。




