リカちゃんの囁き 3
「はぁ? 何言ってんだよ……お前。適当なこと言っているとどうなるかわかってんのか?」
紫藤さんが凄みを効かせてそう言うが、夕樹さんは不敵な笑みで微笑んでいる。
「あら? リカちゃん、変なこと言った? だって、普通そうじゃない? こんなわけのわからない状況で、ゾンビと一緒にいたいわけ、ないじゃない?」
「はっ。お前はわかってねぇな。赤井はお前みたいな人間じゃねぇんだよ。俺達のことだって、人間だって言ってくれているんだよ」
紫藤さんがそう言うと、古谷さんはウンウンと頷いている。
小室さんだけが、何も言わずに夕樹さんをジッと見ている。
「へぇ~……それ、本気なのかな~?」
夕樹さんがそう言うと、紫藤さんと古谷さんは一瞬動きを止めた。
「だってさ~、私がゾンビってはっきりわかるまで、ドーテー君、私に対して随分特別扱いだったよね~? それって、こんなゾンビ共より人間かもしれない私と一緒にいたかった、ってことじゃないの~?」
「そ、そんなことない!」
俺が思わずそう言ってみせるが、夕樹さんはニタニタ笑ってこちらを見ている。
しかし、ようやくその時になって俺は理解した。
古谷さんと紫藤さんが、俺のことを少し怪訝そうに見ていたのだ。
「え……ちょ、ちょっと待ってよ。紫藤さん、古谷さん……も、もしかして、夕樹さんの言うこと、信じるの?」
「え、あ……い、いや、そういうわけじゃねぇけど……」
「言われてみれば……確かに、と思いまして……」
古谷さんと紫藤さんは少し戸惑っているようだった。
考えてみれば、俺の行動も大分迂闊だったのだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 二人共、ずっと一緒にここまでやってきたじゃないか。それなのに……」
「……でも、私達の忠告を、赤井君は聞き入れてくれませんでしたよね……」
古谷さんが鋭くそう言う。
そうだ……俺は、二人の忠告を聞き入れなかった……今こんな状況に陥っているのは、俺自身の招いたことなのだ。
「だからさぁ~、私、思うのよ。もしかしてドーテー君ってば、アンタ達みたいな人間かゾンビかわかんない奴等と一緒にいれば、安全だって思ってた……だから一緒に行動していただけじゃないの~?」
「そ、そんな……そんなことない!」
「そうやってムキになって反論する所が怪しいなぁ~? アンタ、自分だけ人間だから所詮コイツ等がゾンビのままでもいいって思ってんじゃないの?」
「違う! 俺は……」
その時だった。
しどろもどろの俺の横をゆっくりと通って、そのまま小室さんが夕樹さんの前に立った。
「何よ。アンタも、ドーテー君にムカついているでしょ?」
そう夕樹さんが言った時だった。
小室さんは、思いっきり夕樹さんの頬を引っ叩いたのだった。




