理性とゾンビ 7
小室さんが近づいてくるのに気付いたのか、ゾンビは小室さんを見た。
小室さんはゾンビに向かってやはり「あー」とか「うー」とか言っている。
ゾンビの方も同じように呻き声で返している。
と、しばらく呻いていたかと思うと、電柱のゾンビはその場から歩き出した。
そして、そのまま道の向こうへと歩き出す。
「あ……マジかよ」
そのまま電柱ゾンビは背中を向けて歩いて行ってしまった。
俺はそれと同時に小室さんの方に近づいていく。
「小室さん」
「あ、きた」
小室さんは、死人のように無表情のままだったが、どこか得意そうに俺を、その死んだ魚のような目で見ていた。
「どう? これで、いい、よ、ね」
「ああ。ありがとう。ここ、俺の家ね」
そういって俺は家を指差す。そうしながらも、無事に帰ってこられたことに感謝していた。
いや、それ以上に、まさかゾンビと一緒に家に帰ってくるとは、思ってもみなかったのだけれど。
「おおきい、いえ」
「え? あ、あはは……そうかな」
「……あかい、くん?」
「え? ああ。そうだ。俺は、赤井レオ。よろしくね。小室さん」
表札を見て首をかしげる小室さんに、俺はようやく自己紹介をした。
すると、なぜか少し恥ずかしそうに顔を背ける小室さん。
「ど、どうしたの?」
「わたし、おとこのこ、しりあい、はじめて」
「え? あ、ああ……その制服、女子校のだもんね。お、おれもこんな可愛い女の子と知り合うのは初めてだよ」
相手がゾンビだからか、俺はそんな風にありのままの気持ちを言ってしまってからしまったと思った。
小室さんは俺の言葉が理解できるんだ。なんで俺はこんなことを……
俺が見ると、小室さんはやはり恥ずかしそうにうつむいていた。
「あ……ごめんね。変なこと言っちゃって」
「……べつ、に。はやく、いえ、はいら、ないの?」
「あ、ああ。そうだね……じゃあ、入ろうか」
俺はゾンビの女の子相手に大分狼狽しながら、とりあえず、家の中に戻ることにしたのだった。




