彼女はゾンビ? 9
「夕樹さん! あれ……おかしいな……」
古谷さんの提案を受け、俺達は一旦別れていた。
古谷さん達を別れた俺は、先程まで夕樹さんがいたはずの場所まで戻ってきていた。
しかし、夕樹さんの姿は見えない。
「夕樹さん……夕樹さん!?」
俺は大声で夕樹さんの名前を呼んだ。しかし、返事はなかった。
「……どこに行ったんだろう……もしかして、トイレとか?」
俺は少し嫌な予感がした。
ふと思いついた場所であるトイレ……ゾンビ映画ではかなり危険なポイントである。
というか、そもそも俺は小室さんとの出会いだって、俺がトイレに逃げ込んだから起きた出来事なのだ。
でも、トイレに逃げ込まなければ小室さんにも会えなかったし……
「……よし、行こう」
俺にとってはトイレはもしかするとラッキーポイントなのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺はトイレを目指す。
程なくしてトイレにたどり着くと、既になにやら様子がおかしかった。
「……なんか、音が聞こえるな……」
ブチッ、ムシャ……なんとなくだが、あまり聞きたくないタイプの音が聞こえてくる。
というか、トイレの前についた時点で俺はなんとなく予想ができてしまった。
そして、古谷さんが言っていたことが正しかったということを。
「……いや、だったら……」
だったら、尚更だ。夕樹さんは小室さん達と「同じ」なのだ。恐怖する必要はない。
俺はそのまま女子トイレの中に入っていく。
ゆっくりと顔をのぞかせると、奥の個室のドアが開きっぱなしになっていた。
件の音は、そこから聞こえて来ているのである。
「ゆ、夕樹さん……?」
俺が呼びかける。すると、肉を引きちぎるような音は収まった。
「夕樹さん……いるんだよね?」
俺がそう言うと、トイレの個室から物陰が出てきた。
「ひっ」
俺は思わず声を漏らしてしまった。
「……あー……なんだよ。くそっ……ったく、女子トイレに入ってくる? 普通? あり得ないんですけど……」
「え……ゆ、夕樹さん?」
トイレの個室から出てきたのは、口の周りに赤い肉汁を滴らせた、夕樹リカその人だった。




