理性とゾンビ 6
「小室……さんか。あはは、ごめんね。ゾンビよばわりしちゃって」
俺がそういうと、無表情のままで小室さんは俺を見た。
「いい、よ。だて、わたし、ぞんび、だから」
そして、たどたどしくもそう返事してくれた。
「小室さんは、なんでゾンビになったの?」
「びょうき、だよ。にしゅうかん、まえ」
「病気……ゾンビ病か。二週間前に発症したってわけね……え。ちょっと待って。もしかして、二週間、ずっとあのコンビニのトイレに?」
俺が尋ねると小室さんは頷いた。
「う、ん。そと、でられなかた。こわいぞんび、いるし」
「え、でも二週間飲まず食わずでよく生きてたね……」
「だて、わたし、ぞんび、だし」
「あ……あはは。そ、そっか」
言われて見ればそうなのだが……ゾンビは二週間も飲まず食わずでも平気なのだろうか。
空腹に耐えかねていきなり襲いかかってこないだろうか、という不安が俺の脳裏によぎる。
ちらりと小室さんを見ると、相変わらず「あー」とか「うー」とか言葉にならない呻き声を発していた。
基本的に言葉がしゃべれる以外は普通のゾンビと考えた方がいいのだろうか。
だとすると用心するに越したことはないだろう。
俺と小室さんはそのまましばらく歩いた。
小室さんの歩く速さに合わせても、それからしばらくすると俺の家が見えてきた。
そして、俺が予想した通り、やはり電柱の前にゾンビが一体、寄りかかっている。
「……さて、どうするかな」
「どう、した、の」
「え? ああ。ほら。あそこにゾンビがいるだろう?」
俺が指差すと、小室さんはゆっくりとそちらに顔を向ける。
「うん。いる」
「あのゾンビに見つからずに家に入りたいんだけど……どうしようかなぁ、って」
「それなら、わたし、あのひと、はなし、してくる」
「え? 話?」
そういうと小室さんは電柱に寄りかかっているゾンビに近づいて行った。
すでにゾンビまでは数メートルの距離にまで近寄ってしまっている。
止める暇もなかった俺は、それを固唾をのんで見守ることにした。




