彼女はゾンビ? 1
「……で、やっぱり予定通りデパートに行くのかよ?」
次の日の朝、紫藤さんは俺に訊いてきた。
「え……あ、うん。行くよ」
「大丈夫かよ? あんなのがまた襲ってくるかもしれないんだぜ?」
そういって紫藤さんは俺のことを心配そうに見る。おそらく、「あんなの」というのは巨体のゾンビのことではなく、宮本さんのことだろう。
「あはは……大丈夫だよ。宮本さんは……もう……」
「あ……す、すまねぇ。そういうつもりじゃ……」
「……いいだよ。そもそも、デパートに行く必要があるのは、俺だけなんだし。むしろ、俺の方がみんなに聞きたいくらいだよ。デパート、行っていいのかな?」
俺がそう聞くと、三人の少女はキョトンとした顔でお互いの顔を見合わせていた。
「……ふふっ。そんなの当たり前じゃないですか。赤井君には食料が必要なんです。デパートに行くのは必要なことです」
「で、でも……それは、俺の都合で……」
俺がそう言いかけると、パシンといきなり頭を叩かれた。見ると、紫藤さんがしかめっ面で俺のことを見ていた。
「あのなぁ……俺達はお前に、尠からず助けられているんだぜ? だから、お前に食料が必要だってなれば、そのためにデパートに行くのは当たり前なんだよ。くだらねぇこと気にすんなよ」
「紫藤さん……あはは……じゃあ、行こうか」
俺はそう行って小室さんの方を見る。小室さんは黙って小さく頷いた。
俺達は今度こそ、デパートに向かって歩き出した。俺はそのまま行けばおそらく昼頃にはデパートに着くことが出来ると考えていた。
実際、俺達は昼過ぎくらいに、デパートを見ることが出来た。今は亡き宮本さんの運転でやってきた夜とは違い、昼間のデパートは、なんだかゾンビが大量発生する前と変わらない感じだった。
「さぁ、デパートの中に入りますよ」
古谷さんを先頭にして、俺達はデパートの入り口へと向かっていく。
自動ドアになっていたデパートの中には簡単に入ることが出来た。未だに電気も通っているらしい。
「ふむ……ここがデパートか」
紫藤さんがまじまじと周囲を見回す。
「なんですか。アナタ、デパートに来たこと無いんですか?」
「なっ……! ち、ちげぇよ! ただ……いつもと変わらねぇんだなぁ、って……」
紫藤さんの言う通り、いつもと変わらなかった。まるでゾンビもいないみたいで……
「……おかしい」
俺の隣で小室さんがボソリと呟いた。
「え……何がおかしいの? 小室さん」
「……ぞんびのけはい、ぜんぜんない」
「え……それって、おかしいの?」
俺がそう訊ねると、小室さんは頷いた。
「……まえにきたとき、ぞんび、けっこう、けはいあった。でも、いまは――」
と、小室さんがそこまで言いかけた時だった。
「だ、誰かいるんですか!?」
そこに、いきなりどこからか声が聞こえて来たのだった。




