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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター23
126/204

婦警の日記

「小室さん……話って……」


「うん。このひとについての、はなし」


 小室さんが俺を連れてきたのは、コンビニの裏に隠していた宮本さんの……死体だった。


 血まみれになってしまった宮本さんの死体を、俺達はコンビニの中から持ってきた布で覆った。それでも、おびただしい血の量は、白いタオルを紅く染めていた。


「……宮本さんの……話?」


 俺が不思議そうに訊ねると、小室さんはぎこちない動きで、懐から一冊の小さなメモ帳を取り出した。


「これ。このひとの」


「え……宮本さんのメモ帳?」


 そういって小室さんは俺にそのメモ帳を差し出してくる。


「すこし、こころのじゅんび、いるかも」


 その言葉尻から、既に小室さんはそのメモ帳の中身を見ているようだ。俺は恐る恐るそのメモ帳を受け取り、中身をゆっくりと開く。


 宮本さんのメモ帳には、俺と別れてからのここ数日のことが書いてあった。宮本さんはメモ帳というよりも、それを日記代わりに使っていたらしい。


『赤井君と別れて一日目:赤井君が私を置いていってしまった。寂しい。辛い。昨日は一睡もできなかった。怖くて車外に出ることが出来ない。私はどうすればいいのだろう……』


 悲痛な言葉がそこには書いてあった。俺はためらわずその次の文面に目を走らせる。


『赤井君と別れて二日目:不幸なことに、車が動かなくなった。どうやらガソリン切れらしい。いつまでも車の中にいられない。私は外に出た。探す……赤井君を探すのだ。きっと赤井君はあのゾンビ共と合流するつもりだ。だから、私は外に出た』


 どうやら、宮本さんは俺と別れて二日目……つまり、俺が紫藤さんと出会った頃に車から出て、俺を探し始めたようだ。俺はそのまま次のページへ向かう。

 と、次のページは異様な状態だった。ページの端っこには赤い血がべっとりとこびりついている。


「……何があったんだ?」


 ページにはかすれた文字でその日のことが書いてあった。


『赤井君と別れて三日目:最悪だ……赤井君を追って線路をたどっていたときに化け物に噛まれた……右腕だ。血が出るが痛みがない……このままではわたし、は……あかい、君……』


「……線路? それじゃ……」

 つまり、宮本さんは本当にすぐ側まで俺を追ってきたということに成る。俺は少し恐怖しながらも、次のページを見る。

 俺は思わず驚いてしまった。それまで比較的綺麗な文字で書かれていた日記は、非常に乱れ気味にかかれていた。


「あかいくんとわかれて、よっかめ?:あかいくんみつけた。あかいくん、いえにはいっていくの、みた。あかいくん、あかいくん……わたし、と、あったら、よろこんでくれるかな?』


 狂気にあふれた文章を読んでいると、思わず俺は指先が震えるのがわかった。どうやら、宮本さんは既にゾンビ病を発症していたようである。


「あかい、くん」


 と、俺が恐怖していると、小室さんの声が俺を現実に引き戻した。


「え……あ……小室さん……」


「つぎのぺーじ、よまないほうが、いい」


 小室さんは辛そうな顔でそういう。おそらくそれほどに俺には読ませたくないないようなのだろう。


「……だ、大丈夫。大丈夫だよ。小室さん」


 俺は強がりながらそういってページをめくった。


 そして、文面を見て、大きく目を見開いてしまった。


 文字が描かれている最後のページには、俺と分かれた日数などは書いていなかった。ただ、書きなぐったかのように乱暴に文章が書かれているだけである。


『あかいくん、なんで。なぜ、わたしではなく、ばけもの、えらぶ? わたしはあかいくん、まもる。まもる、まもる? あかいくんとひとつになればまもれる……あかいくん、おいしそう。おねえさん、が、たべて、あげる』


 俺はその文章を呼んでこの上なく恐怖を感じた。今までゾンビとはたくさん会ってきた。でも……正直に言えば、宮本さんの日記には……なんというか、ゾンビではなく、人間的な恐ろしさがあったのである。

 とにかく、俺は震える指先で宮本さんのメモ帳を閉じた。

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