理性とゾンビ 5
「……だ、大丈夫かな」
コンビニを出た俺は、ゾンビちゃんと並んで歩いていた。
ゾンビちゃんの亀があるくようなスピードの歩きに合わせながら俺は歩いている。
まだゾンビは現れないが、現れた場合どうするか。
俺はそこで賭けをすることにしたのだ。
ゾンビちゃんといれば、他のゾンビに襲われないのではないか? そんな賭けに出たのである。
確かに、ゾンビ同士が共食いしているという光景は、今までゾンビ観察をしてきたが見たことはない。
だからこそ、俺はそんな賭けに出たのである。
「あー……うー……」
俺の隣でゾンビちゃんはまた声にならないうめき声をあげている。
さっきしゃべれたのはたまたまだったのだろうか……俺はもう一度確認して見ることにした。
「あ、ゾンビちゃん。あんまり急がないでいいからね?」
「ごめん、ね」
青白い顔をした女の子ゾンビは、俺の方にゆっくりと顔を向けて、たどたどしくも、確かにそう行った。
やはりこの女の子ゾンビは一応しゃべれるようである。
どうしてしゃべれるのかわからないが、とにかくしゃべれるのだ。
俺にとってはそれだけでも十分だった。
意思疎通ができる存在の登場。今までこの世界に一人しかいないのではないかと思っていた俺にとっては、嬉しい出来事だった。
「あ、と、わたし、ぞんび、じゃない」
「え? ゾンビじゃないの?」
「う、ん。むね、ぽけっと。みて」
そう言われて俺は女の子ゾンビの胸ポケットを見る。
いや、たぶんゾンビなんだろうけど……やはり女の子の胸ポケットに手を入れるっていうのは、どうなんだろう。
でも、まぁ、本人がそう言ってきているんだし……
「……じゃあ、失礼して」
俺はそういってゾンビちゃんの胸ポケットの中に手を突っ込んだ。
ゾンビのくせに柔らかく弾力のある感触が手に伝わってくる。
恥ずかしい気持ちになったが俺は急いで中に入っていたものを取り出した。
「あ……学生証」
見ると、それは学生証だった。女の子ゾンビのものらしい。
「小室……アリス?」
書いてある名前を見て俺がそうつぶやくと、女の子ゾンビ改め、小室アリスは、コクリとしかし、しっかりと頷いた。




