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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター22
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赤井レオにできること

「小室さん?」


 俺は二階にあがって部屋の扉を開ける。


 見ると、小室さんがベランダの方に出ている姿が見えた。


「あ……どうしたの? 小室さん」


 俺はそのままベランダの方へ向かっていく。俺の声に気付いていなのか、小室さんはこちらに振り返らない。


 仕方なく、俺もベランダに出た。


 ベランダから見た空の向こうには、既にオレンジ色の夕日が沈みかかっている。久しぶりに見るその光景に、俺は思わず見惚れてしまった。


「あかい、くん」


 と、小室さんの声が聞こえて来た。俺はそちらに顔を向ける。


 その瞬間、小室さんが、古谷さんと同様にして、いきなり俺に抱きついてきた。


 そして、一瞬、首筋にヒヤッとした感触が走る。


「あ……小室さん?」


 小室さんが俺の首筋を甘咬みしている……そうわかったのは、抱きつかれてから少し経ってからであった。


「あ……え? ど、どうしたの?」


「……ずるい」


「え? ず、ずるい?」


「……ふるやさんだけ……わたしも、あかいくんに、おこってる」


 すると、小室さんは俺から離れた。そして、いつもの死んだ視線で、俺のことをジッと見ている。


「ふるやさん、と、あかい、くん。いちゃいちゃ、してた」


「え……い、イチャイチャ……? し、してないよ! ……っていうか、話、訊いてたの?」


「……へやのまえで、ききみみ、たてたり、して……ない。とびらのすきまから、ふたりをみたり……してない」


 そう言って、小室さんはプイッと不機嫌そうに顔をそむけた。


 どうやら、俺はとりあえず小室さんに怒られているようだった。


「あ……あれは、違うよ。古谷さんと……仲直り。うん。仲直りしたんだよ」


「……じゃあ、わたしも、なかなおり、したい」


「え? だ、だって、小室さんは……」


 俺がそう言うと、ずいっ、と小室さんは俺の方に一歩近づいてきた。


「わたし、ほんとは、おこってる」


「あ……うん。そう……なの?」


「そう。あかいくん、しんじてた。けど、かえるの、おそい」


 小室さんの言葉は俺の胸に突き刺さった。思わず返す言葉につまってしまう。


「あ……そう、だね……」


「だから、しゃざい、して」


「あ……うん。本当に、ごめんね。小室さん」


 そういって俺は頭を下げる。すると、ポンと、頭をの上を叩かれる感じがした。


「……小室さん?」


 俺はゆっくりと顔を上げる。


「……あかいくん、には、ちかくにいて、ほしい」


「あ……うん」


 相変わらずの無表情だったが、言葉には、小室さんの心の底からの気持ちが感じらるような気がした。


 そうだ。あのコンビニであってから、俺と小室さんはここまでずっと一緒だったのだ。


 小室さんの近くにいること。それが、この崩壊した日常の中で俺ができる限られた出来事なのだ。


「大丈夫。今度は絶対、いなくならないよ」


 俺がそういうと、ぎこちなくではあったが、小室さんは少し笑ったように見えた。

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