赤井レオにできること
「小室さん?」
俺は二階にあがって部屋の扉を開ける。
見ると、小室さんがベランダの方に出ている姿が見えた。
「あ……どうしたの? 小室さん」
俺はそのままベランダの方へ向かっていく。俺の声に気付いていなのか、小室さんはこちらに振り返らない。
仕方なく、俺もベランダに出た。
ベランダから見た空の向こうには、既にオレンジ色の夕日が沈みかかっている。久しぶりに見るその光景に、俺は思わず見惚れてしまった。
「あかい、くん」
と、小室さんの声が聞こえて来た。俺はそちらに顔を向ける。
その瞬間、小室さんが、古谷さんと同様にして、いきなり俺に抱きついてきた。
そして、一瞬、首筋にヒヤッとした感触が走る。
「あ……小室さん?」
小室さんが俺の首筋を甘咬みしている……そうわかったのは、抱きつかれてから少し経ってからであった。
「あ……え? ど、どうしたの?」
「……ずるい」
「え? ず、ずるい?」
「……ふるやさんだけ……わたしも、あかいくんに、おこってる」
すると、小室さんは俺から離れた。そして、いつもの死んだ視線で、俺のことをジッと見ている。
「ふるやさん、と、あかい、くん。いちゃいちゃ、してた」
「え……い、イチャイチャ……? し、してないよ! ……っていうか、話、訊いてたの?」
「……へやのまえで、ききみみ、たてたり、して……ない。とびらのすきまから、ふたりをみたり……してない」
そう言って、小室さんはプイッと不機嫌そうに顔をそむけた。
どうやら、俺はとりあえず小室さんに怒られているようだった。
「あ……あれは、違うよ。古谷さんと……仲直り。うん。仲直りしたんだよ」
「……じゃあ、わたしも、なかなおり、したい」
「え? だ、だって、小室さんは……」
俺がそう言うと、ずいっ、と小室さんは俺の方に一歩近づいてきた。
「わたし、ほんとは、おこってる」
「あ……うん。そう……なの?」
「そう。あかいくん、しんじてた。けど、かえるの、おそい」
小室さんの言葉は俺の胸に突き刺さった。思わず返す言葉につまってしまう。
「あ……そう、だね……」
「だから、しゃざい、して」
「あ……うん。本当に、ごめんね。小室さん」
そういって俺は頭を下げる。すると、ポンと、頭をの上を叩かれる感じがした。
「……小室さん?」
俺はゆっくりと顔を上げる。
「……あかいくん、には、ちかくにいて、ほしい」
「あ……うん」
相変わらずの無表情だったが、言葉には、小室さんの心の底からの気持ちが感じらるような気がした。
そうだ。あのコンビニであってから、俺と小室さんはここまでずっと一緒だったのだ。
小室さんの近くにいること。それが、この崩壊した日常の中で俺ができる限られた出来事なのだ。
「大丈夫。今度は絶対、いなくならないよ」
俺がそういうと、ぎこちなくではあったが、小室さんは少し笑ったように見えた。




