君と出会えたことに
「……あれ? 小室さんは?」
リビングに戻ると、ソファに座っていたのは紫藤さんだけだった。
「アリスなら、お前に会いに行くって、上の階に行ったぞ」
「え? 上の階って……俺の部屋?」
紫藤さんは大きく伸びをしながらコクリと頷いた。
「……で、どうだったんだよ。アイツとは仲直り出来たのか?」
「あ、うん。古谷さんもデパート、行ってくれるって」
「そうか。ったく……なんだよ。お前、モテモテじゃねーか」
「なっ……紫藤さん、何言って……」
ニシシと歯をむきだして、嬉しそうに紫藤さんは笑っている。
「……もっとも、人間じゃなくてゾンビに、だけどな」
「……違うよ。紫藤さん。俺は、三人のこと、ゾンビだなんて思ってないよ」
俺がそう言うとキョトンとした顔で紫藤さんは俺を見た。そして、小さくため息をついた。
「そう言って貰えるのは、ありがたいけどな……お前、ホントに無理してないか?」
「え? 無理って?」
「その……俺が勝手にこの家にやってきちゃって……面倒なことになったんじゃないかな、って……」
少し気まずそうな顔で紫藤さんはそう言う。
「紫藤さん、そんなことないよ」
俺の口からは自然とそんな言葉が出てきた。紫藤さんは目を丸くして俺を見ている。
「紫藤さんと出会ったことを、嬉しいと思ったことは会っても、後悔なんてしたことない。それに……また一人、一緒にいられる人数が増えて、俺は嬉しいよ」
そう言うと紫藤さんはまた呆れたようにため息をついた。俺は、また何か変なことを言っているだろうか?
「……まぁ、いいぜ。さっさとアリスの所に行ってやりなよ。アイツ、何かお前に話したいことがあったみたいだぜ?」
「あ、うん」
俺はそのままリビングから出ていこうとした。
「あ……おい、赤井」
と紫藤さんが俺のことを呼ぶ声が聞こえて来た。思わず振り返る。
「え……紫藤さん?」
「あ……いや、その……ありがとう」
紫藤さんは俺から視線を反らし、小さな声でそういった。俺は、どうしたらいいかわらかずただ呆然と紫藤さんのことを見ていた。
「あ……うん。どういたしまして……」
ただ、反射的に俺はそう返事した。
「……ほら。さっさと行けよ」
紫藤さんにそう言われ、今度こそ俺はリビングを後にした。




