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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター20
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ただいま 1

「あ……古谷さん?」


 あまりのことに俺は動けなかった。ゆっくりと見ると、古谷さんは確実に俺の首筋に噛み付いてきている。


 しかし、不思議なことに痛みがない。


 まったく噛み付かれたはずの部分が傷まないのである。


「え……えっと、古谷さん? どうして……噛まないの?」


 思わず俺は聞いてしまった。すると、古谷さんはゆっくりと俺の肩から口を離す。


「……ゾンビになってもいいだなんて言っている人を、ホントにゾンビにしても、仕方ないじゃないですか」


 不機嫌そうにそう言う古谷さん。俺はどうしたらいいかわからず、思わず小室さんと紫藤さんを見る。


「あー……あう。うあ」


 なぜか腕組みをしてうんうんと頷く紫藤さん。何を言っているかわからないので、思わず小室さんを見る。


「そのひと、いうとおり。わたし、もうおこってない」


 小室さんはいつもの調子でそういった。そして、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


 そして、俺の目の前に立ってじっと、その死んだ魚のような目で俺を見る。


「あかいくん、ほんとに、わたしたちといっしょ、いいの?」


「え……今更何を言っているの。俺は最初から二人ともう一度会うためにデパートに戻るつもりだったんだ。当たり前だよ」


 そういうと小室さんはポンと古谷さんの肩を叩いた。


 古谷さんは小室さんの方にゆっくりと顔を向ける。


「あかいくん、わたしたち、みすてない」


 そう言うと古谷さんは悲しそうに下を向いてしまった。小室さんは俺の方に顔を向ける。


「あかいくん、おなか、へってないの」


「え……あ、うん。減った」


「じゃあ、かっぷめん、なら、ある」


「あ……ありがとう。小室さん」


 俺がそういうと小室さんはなぜかまたジッと俺のことを見つめていた。


「え……まだ、何か?」


「……おかえり、ってえがお、でいいたい。けど、えがお、できない」


「あ……あはは。いいんだよ。小室さん。そう言ってくれるだけで」


 そういうと小室さんは少し俺から視線を逸らした後で、もう一度俺の方に顔をむけた。


「おかえり、あかいくん」


 その言葉で、俺はようやく家に帰ってきたことが実感できたのであった。


「……うん。ただいま。小室さん」

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