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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター17
100/204

言葉がなくても 3

「う~ん……どうしよう」


 俺は迷った。


 あのゾンビは以前俺が目の前を通っても、何の反応もなく、やり過ごすことが出来た。


 だったら、之まで通りに、ゾンビの真似をしていれば何も問題はないはずである。


 しかし……


「あう?」


 怪訝そうな顔で紫藤さんが俺を見る。


 問題は紫藤さんだ。紫藤さんは小室さんと違って普通に走ることができる。


 しかし、ゾンビをすごく怖がっていた。


 動かないとわかっているゾンビであっても、目の前を通るのは難しいんじゃないだろうか?


「えっと……紫藤さん。ほら、あそこ。ゾンビいるでしょ?」


 俺は思い切って俺の家の前の電柱を指さした。


「あう」


 紫藤さんもわかったらしい。しかし、怖がっている様子ではない。


「え……怖くないの?」


「あう。うー……あう」


 と、何を言っているのかわからなかったが、紫藤さんはそのまま電柱に向かって歩き出した。


 正確にはゾンビに向かって歩き出したのである。


「え……ちょ、ちょっと! 紫藤さん!?」


 俺がとめるのも聞かずに、紫藤さんはそのまま行ってしまう。


 そして、ゾンビの前で立ち止まった。


「あう」


 と、紫藤さんはゾンビに声をかけた。すると、ぼぉっとゾンビはその白く濁った瞳を紫藤さんに向ける。


「あう~……うあー。あう!」


 紫藤さんがなにやら言っていると、ゾンビはなぜか少し慌てた様子で――俺にはそう見えた――電柱から離れて、道の向こうに行ってしまった。


「え……え?」


 俺があっけに取られていると、紫藤さんはニンマリと得意気に俺を見てきた。


「……今の、どうやったの?」


 俺が訊ねると、紫藤さんはなにかをメモ帳に書き込んで、俺に見せる。


「『そこをどけ、って言ってやった』……ゾンビ、怖くないの?」


「あう? あう。あうあー……あう」


 言葉はわからなかったが、おそらく怖くないのだろう。


「あ……とりあえず、ありがとうね」


 俺がそう言うと紫藤さんはキョトンとした。そして、視線を反らし、そのまま俺の方に行ってしまった。


「あ、そうだ。家」


 そして、俺も我に返ると、家の玄関の扉へと向かったのだった。

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