理性とゾンビ 3
……ん? 待てよ。
「……そういえば、この入り口って……」
俺はふと目の前の自動ドアを見る。
そういえば、この自動ドアが開いた途端に音がしたんじゃなかったか。
そのせいでコンビニの外のゾンビ達が気づいて、だからこそ俺はトイレの中に逃げ込んだわけで……
俺は、振り返って女の子ゾンビを見る。
「お前……もしかして」
「あう……あ……うー……」
落ち込んだ様子の女の子ゾンビは、俺の顔を見て、また言葉にならない呻き声を漏らした。
ということは、この女の子ゾンビは、俺が危険だからそのまま自動ドアから出ていくのをとめようとしたって言うのか?
「……なるほど。どうやら、君は普通のゾンビとは違うみたいだね」
「あう? あー……うー……」
女の子ゾンビは俺がそう言うと、少し嬉しそうに首を縦に振った。
「そういうことなら……まぁ、ありがとう。とりあえず、俺はコンビニの裏口から出ていくことにするよ。君もワクチンができるまで、大人しいゾンビのままでいてね」
俺はそういって今度こそコンビニから出ていく意思を固め、コンビニの裏口を探しにそこから動こうと思った。
「あう」
「……え?」
俺がそこから動こうとすると、女の子ゾンビが俺の服の裾を掴んだ。
「な……何?」
「あう……うー……あー……」
「あー……ごめん。やっぱりよくわかんないや。悪いけど、これ以上ここにいるのも危険だからさ」
俺がそのままその場を後にしようとすると、女の子ゾンビはさらに俺の裾をさらに強く掴む。
「あ……あのね。悪いんだけど……」
「あ……つ、つれてて」
「……え?」
俺は思わず目を丸くしてしまった。そして、まじまじと女の子ゾンビを見る。
今……しゃべった?
え……俺の耳がおかしかったのか?
「え……今何か言った?」
「つ…‥つれ……て……て」
「つ……連れてって?」
俺がそう聞き返すと、女の子ゾンビは頷き返してくれた。
……今、意思疎通ができたのか?
勘違いでない……今、確実に女の子ゾンビは俺に喋りかけてきた……よな?
いや、間違いない。
確かに女の子ゾンビは今俺の耳には呻き声以外の言葉で喋りかけてきた。
つまり、ゾンビが……しゃべったっていうのか?
「え、えっと……連れてって……言ったのかな?」
聞き返すと、女の子ゾンビはコクリと頷いた。
「こわ、い」
「え? こ、怖いの? もしかして……ゾンビが?」
女の子はまたしても頷いた。
そして何より、またしても喋ったのだ。
正直、俺は、この時感動してしまった。




