終わった日常 1
「……はぁ。ったく、うろうろうろうろ……飽きないねぇ、アンタらも」
二階のベランダから、双眼鏡で俺は日課としての「ゾンビ観察」を行っていた。
俺の家からでも、双眼鏡を使えばいろんなゾンビが見える。
家の前を歩く元知り合いのゾンビ達、さらには、少し遠くの方、高校への通学路を歩いている元クラスメイトのゾンビ。
みんな一様にうつろな顔をしながらうろうろしている。
俺の知っているゾンビそのものだった。
俺は双眼鏡でのゾンビ観察をやめ、一階のリビングへ向かうことにした。
そして、イヤホンをさしたままのテレビのリモコンを持ち、スイッチを入れる。
『おはようございます。朝のニュースです』
イヤホンから微かにそんな声が聞こえてきた。俺はイヤホンを耳に装着する。
「はい。おはようございます」
俺にとって、朝のニュースのアナウンサーとの出会いは、まさに一日の始まりだ。
まず、テレビの電源が付くということで、まだ電気が通っていることが確認できる。
テレビにイヤホンを付けているのは、デカい音にはゾンビ達が反応するからだ。
ゾンビ一体一体はさほど脅威ではないが、音に反応して大勢のゾンビに家に来られるのはちょっとご遠慮願いたい。
『政府の発表によりますと、依然としてゾンビ病の感染者数は増大しており、その対処ワクチンの開発は一刻を争う事態となっております』
「なんだよ、まだワクチンできてないのかよ」
『このニュースを見ている方は本日も、感染者の方との接触はなるべく避けるようにして外出は控えてください』
俺は、その言葉を聞いてテレビを切った。
どうやら、今日も変わらない一日のようである。
しかし、どうにも今日の俺には問題があった。
「……外出は控えろって言われても、そろそろ不味いんだよねぇ」
俺はそういって今度は冷蔵庫の方に向かった。
そして、冷蔵庫の扉を開け、中身を見てみる。
「……何もない」
まさしく、空っぽだった。
そう。ついにゾンビ映画的にもっとも困る事態である「食糧不足」が起きてしまったのだ。
もちろん、そんなことはわかっていた。だから、準備をしていなかったわけではない。
「……よし。やるか」
俺はそういって玄関の方へ向かっていった。