vol.22
転がった涙に自分でも驚くくらい焦る。
や、やばい泣かせちまった
告白したのは失敗だったか?
焦りともつかない感情が胸の中を揺さぶるけれど
今はそれどころじゃない。
泣いてしまった彼女をどうにかしなくては。
俺をみたままポロポロ涙をこぼす彼女にそっと近寄る。
「泣かないで、真澄ちゃんに泣かれるとどうしていいのかわからない」
あー、これで最後かもしれない・・・
そう思いながらその身体をそっと抱き寄せた。
胸に顔を埋めてくる、その仕草に嫌われてないのか?とは思うものの
そうすると涙の理由がわからない。
嫌われてなくても恋愛対象外だったってことかな
仕方ないよな、年もそこそこ離れてるし・・・
自虐的に自分を慰める。そんな俺の耳に飛び込んできた彼女の言葉。
「・・・・・私も」
「え?」
「私も仁さんが、好き・・・です」
瞬間、頭が真っ白になった。
今彼女はなんて言った?
好き?誰を?彼女が俺を?
聞き間違えじゃないか、確かめたくて発した言葉は柄にもなく震えていて
小さく抗議された言葉に胸を突かれ、
俺はわき上がってくる感情のまま、強く彼女を抱きしめていた。
*
時間の感覚も失せたまま、彼女を抱きしめ続けている。
大人しく腕の中にいる彼女が少し身じろぎしたのをきっかけに、軽く腕を緩めた。
見下ろした彼女も涙はすっかり乾いていて
泣いたせいか少し目が赤くなっている。
そんな顔もかわいくて、つい今の自分の望みを口にしてしまう。
すると彼女は少し逡巡した後、その瞳を閉じることで無言の了承をくれた。
触れるだけの口づけに気持ちが高ぶっていく。
大事にしたい、そう思う気持ちと裏腹に壊してしまいたい衝動に駆られる。
ダメだ、ダメだ
そんなことをしたら彼女を怖がらせてしまう。
必死で自分の中の感情と折り合いをつけ、唇を離す。
ゆっくりと開かれた目を見つめ、俺は言いたかった言葉を音に変えた。
*
「コーヒー入れるからその間に顔洗ってくる?」
まだ抱きしめていたい気持ちを抑え、彼女を解放する。
俺は気にしないけれど、彼女は顔を洗いたいかもしれない。
そう思って、聞いてみると是との答え。
洗面所に案内して、タオルを手渡すとキッチンに戻り
コーヒーメーカーのスイッチを入れた。
ポコポコと音をたてて落ちるコーヒーを見るともなしに見ながら
起きてからの一連の行動をもう一度頭の中で反芻。
寝ぼけて押し倒したのはまずかった・・・
でも結果としてアレがあったから上手くいったのか?
いやいや、でも彼女が受け入れてくれたから良かったものの
もしそうじゃなければただの痴漢?変態か!?
それは良くないだろう!?
泣いたのだってびっくりしたからだろうなぁ・・・
駿河さんに知られたら殴られそうだ。
そんな事が頭に浮かび、思わず苦笑する。
でも久しぶりの幸せに心の中はポカポカしていた。
ふと気がつけば、コーヒーは落ちきっている。
でも彼女は戻ってこない。何かあったかな?
スツールから立ち上がると、様子を見に洗面所へ足を向けた。
「真澄ちゃん?」
洗面所のドアをノックするとひょこっと出てくる頭。
「大丈夫?」
「・・・はい」
少し落ち着いたのか顔がずいぶんさっぱりしている。
「コーヒーはいったから行こう?」
そう言って俺は彼女をリビングへと誘った。
彼女がソファーに腰掛けたのを確認してコーヒーをマグカップに移す。
彼女のはカフェオーレに。
マグカップを手渡すと、ふーふーと息をかけ、さましながら飲む。
その姿がなんかいいなぁと自分のカップを忘れ、つい見入ってしまった。