エピローグ ただいま
眩しい光が二人を包む。
世界が白く染まる。
りょうは思わず紗耶の手を握った。
「紗耶!」
「離さない!」
紗耶も強く握り返す。
「うん。」
「ずっと一緒。」
次の瞬間。
聞き慣れた蝉の鳴き声が響いた。
目を開くと、そこは見慣れた日本の公園だった。
夕暮れ。
高校生だった頃と変わらない景色。
りょうは呆然と立ち尽くす。
「……帰ってきた。」
紗耶も空を見上げ、小さく笑う。
「夢……じゃないよね。」
二人の手は、まだしっかりと繋がれていた。
りょうは慌てて右手を前へ突き出す。
「黒耀!」
何も起こらない。
もう一度。
「漆黒の鎧!」
静寂。
何も現れない。
「共鳴!」
風が吹くだけだった。
りょうは何度も何度も試した。
炎も出ない。
魔法も使えない。
時間も止まらない。
伝説も、冒険も、仲間との旅も。
すべて終わってしまった。
りょうはその場に座り込む。
「……終わった。」
「帰ってきちゃった。」
「俺は……。」
「向こうの世界にいたかった。」
声が震える。
「魔王でもよかった。」
「みんなと一緒なら、それでよかった。」
静かに涙がこぼれた。
紗耶は何も言わず、りょうの隣に座る。
そして、軽く肩を小突いた。
「りょう。」
「ちゃんと約束したでしょ。」
りょうは顔を上げる。
「約束?」
紗耶は少し照れながら笑う。
「大人になっても。」
「ずっと傍にいるって。」
「それに。」
「厨二病にも付き合うって。」
りょうは思わず吹き出した。
「本当に付き合ってくれるの?」
紗耶は笑顔でうなずく。
「もちろん。」
「変身ポーズの練習でも。」
「必殺技の名前を考えるのでも。」
「全部付き合う。」
「だから。」
「一人で勝手に絶望しない。」
りょうは立ち上がる。
空を見上げる。
異世界の空ではない。
見慣れた日本の青空。
それでも。
隣には紗耶がいる。
それだけで十分だった。
「ありがとう。」
紗耶は少し意地悪そうに笑う。
「でも、人前で『漆黒の覇王・神崎りょう!』って名乗るのはやめてね。」
「……努力します。」
「努力?」
「……たぶん。」
二人は顔を見合わせ、大笑いした。
その帰り道。
夕焼けの中を歩く二人の影が長く伸びる。
何気ない日常。
だけど、それは二人が命を懸けて守った世界だった。
もう魔法はない。
魔王もいない。
勇者もいない。
それでも――
二人には、誰にも消せない思い出がある。
そして、これからも二人で歩いていく。
「世界を救ったことは、二人だけの秘密。」
そんな秘密を胸に抱きながら。
― 完 ―




