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作戦会議が終わっても、空気は張りつめたままだった。
研究所から来た優也は、無意識のうちにポケットの中身を確かめていた。
金属が、わずかに触れ合う音がする。
千鳥はその仕草を見て、胸の奥がざわついた。
――あれだ。
理由はわからない。でも、あの人が追われる理由が、そこにある気がした。
「……来る」
不意に、研究所の優也が呟いた。
「まだ姿は見えないけど、近い。空気が、さっきと違う」
係官の優也が即座に反応する。
「千鳥、能力は使うな。今は――」
その言葉を、千鳥は最後まで聞かなかった。
自分の足元で、わずかに世界が歪む。
耳鳴りのような低い音が、鼓動と重なった。
ああ、と千鳥は思う。
まただ。
私が、目印になっている。
「……大丈夫」
そう言って、千鳥は顔を上げた。
「呼ぶだけ。まだ、跳ばない」
係官の優也は、止める言葉を失った。
その瞬間、遠くで何かが軋む音がした。
金属でも、風でもない。
――世界線が、擦れる音だった。




